第7話容疑者

 24-07

「二人が付き合っていた様ですね」須賀刑事が言いながらアパートに向かうと「二階の端の家だと言っていましたね」

「名前とは違って古いアパートだな」と二人は明かりを確認して、古ぼけたチャイムを鳴らす。

「はい」と若い女性の声がして扉を少し開くと「何方様ですか?」と中から娘の凜香が覗くと手帳を見せて「警察の者ですが?お母さんは戻られていますか?」

「通夜から戻っていませんが?」と高校生の凜香が答える。

通夜が終わってもう帰っている時間だが、喪服で何処に立ち寄ったのだろう?隣の勝弘の式場?と勝手な想像をする二人の刑事。

その頃、香里は仕事仲間と今後の店の事について話をしていた。

伸子が美千代に言われた事を思い出して、店を続けるか?息子の猛に相談をしていた。

猛はもう自分は店の経営はしないが、借り物なのでもし貴女達が継続して店を営業するなら、そのまま譲ると四人に申し出ていた。

美千代が個人的に出している備品も、そのまま使っても構わないと猛は話して四人がそのまま経営してくれる様に願った。

「母の思い出の店なので、急に閉めるのは寂しいです」と急に亡くなった母の意志を継いで欲しいと伸子に話した。

取り敢えず必要な物は月々の家賃と、カラオケのリース代程度、お酒もそのまま使えるので、出費は無い事に成る。

伸子は二、三日考えると言って、ようやく喫茶店を出た。

実際四人には、死活問題で店を辞めると収入が無くなる。

昼間の仕事をしているが、パートだからたいして収入は無い。

週に三日から四日この店に勤めてようやく生活が出来る状況だ。

伸子の子供は既に働いているのが、他の愛も成美も子供はまだ学生で勿論香里も同じだ。

一番若い成美は二軒のスナックを掛け持ちで忙しく働いている。

全員バツイチ、成美は新しい彼氏が居る様な事は時々話してはいるが定かではない。

話が終わって自転車で帰宅する香里を、二人の刑事がアパートの前で待ち構えている。

「高校生の子供には聞かせられないな」

「そうですね」とアパートの軒先で待つ二人。

「このアパートに住んで、あの男に貢かな?」と泊が言うと「女は判りませんよ、自分が貧乏でも愛していたら?」

「そんなものか?うちの家内は絶対に無かったぞ」と笑う。

結婚もしていない須賀刑事には、恋愛はバラ色に見えるのだろうと苦笑いの離婚経験者の泊刑事。

そこに自転車が走って来て、香里と確認すると「少しお話を伺いたいのですが?」

「何でしょう?ママの死に何か疑問が有るのですか?」と尋ねる香里。

「明日、署まで来て頂きたいのですが?」

「何故?私が?」と不思議そうな顔をすると「昔、ラブホのシルクシャトウに行かれたでしょう?男性と一緒に!」香里は一瞬顔色が変わってしまった。

確かに昨年、有る男性に誘われて一度だけ行ったのが、その名前のラブホだった。

何故?今頃?と不安に成った時「心辺りが有る様ですね」と須賀が言うと泊が「高校生の前では話せないでしょう?だから明日警察に来て下さい」

「でも、一体何が?」と不安顔の香里「殺人事件の様です」と須賀が言って青ざめる香里。

この時香里は自分と一緒に去年ラブホに行った足立が、殺されたのだと思った。

去年迄勤めていた昼間の仕事の上司で、香里に接近してきた男で、再三の誘いに好意を持っているのと、香里のタイプだったので誘いに乗って関係を持ってしまった。

するとお金を差し出して、その男は香里の元から去ってしまったので、完全に騙されたと悔し涙で職場を変わったのだ。

後で聞くとこの足立は、職場に気に入った女性が来ると直ぐに手を出す常習犯だったのだ。

香里には前の亭主と別れて初めての男性で、その足立が約一年に渡って時間をかけて口説かれて、始めて行ったラブホテルがシルクシャトウだった。

「判りました、明日丁度昼間の仕事を休んで、葬儀に行きますので、その後に参ります」と刑事に告げると須賀刑事が「必ずお願いしますよ、逃げられませんよ」と言うので「何故?私が逃げなければ行けないのですか?」と怒る香里。

泊刑事が須賀の袖を引っ張って「行こう」とその場を離れて行った。

その少し前に、ようやく美千代がやって来て(何故?香里もあのラブホに行ったの?本当に?誰と?)と困惑していた。

帰る途中の二人の刑事に付いて行く美千代「決まりですね、顔色変わったでしょう、あの釜江とラブホに行く仲だったのですね」

「確かに顔色が変わったな、でもあの住まいで釜江にお金を貸すだろうか?高校生の子供で生活一杯だと思うが?」泊刑事には考えられなかった。

「別れた亭主がお金を、そう養育費を出しているのですよ」と須賀が決めつけた様に言う。

(それはないわよ、香里何も貰ってないと、店で話していたわよ、でも始めて自宅見たけれど、古いボロアパートに住んでいたのね、知らなかった)と今更ながらに店の従業員の事を知らないのだと思う美千代だ。

でもこのまま犯人にされてしまうのかな?(釜江の馬鹿!)と大きな声で叫ぶ美千代。

(何が馬鹿だ!今お袋の涙に感動していたのに、呼ぶなよ)

(馬鹿が来た!)

(呼ばれたら自動で、移動してしまうよ、不便な幽霊だ)

(呑気な事、言っている場合じゃないのよ、店の女の子が貴方を殺した犯人にされてしまうのよ、何とかしてよ)

(あの子か?俺が肩を触ろうとした?)

(そうよ、シルクシャトウってラブホにも行ったらしいのよ、大変よ)

(俺は、一緒に行ってないよ)

(それは、聞いたわ、でも警察は貴方と行ったと思っているのよ)

(行っても良いぞ、俺は)

(馬鹿!)と怒る美千代。

(香里の様子を見に行きましょう)のアパートの中に入る二人。

(わー駄目、見たら)と言う美千代。

高校生の凜香が今お風呂に入ろうとして、上半身を脱いだ時だった。

(幽霊も便利だな)

(馬鹿、見たら駄目よ)

(役得、役得、良い身体しているな)と近づく勝弘。

(触れないな、見るだけか残念だ、俺の今度の母親は若い女が良いな、高校生か幼妻)

(馬鹿、早く警察に行きましょう、ここはもう良いから)と(泊刑事!)と叫ぶと一瞬で飛んで電車の中に移動した。

(あれ?釜江さん来てない、釜江!来て!)と叫ぶ美千代。

(おい、良い処だったのに、呼ぶなよ、ブラを外す寸前だったのに!)

(馬鹿に付ける薬は地獄でも無いのね)呆れる美千代。

「明日、取り調べで吐くでしょうか?」と小声で話す須賀刑事。

「ホテルは動かない証拠に成るな、監視カメラの映像を入手しておこう」

(それは良いわ、釜江さんと一緒で無いのが証明されるわね)

(それにしても女子高生は良いな)

(真面目に考えてよ)

(俺も、そのラブホ行ったかも知れないな)とポツリと言う勝弘だった。

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