第5話通夜
24-05
勝弘の口座を調べて、泊刑事達は仰天していた。
サラ金と呼ばれる処が多数存在して、毎月の返済に追われているが、毎月の給与よりも支払が多い状態で、この不足分を何処から工面していたのだろう?
それと毎夜の飲み代も馬鹿に出来ない金額だったと思われる。
二人は香里の住所を聞いて裏付けをとらなければ、あの森永の娘が語った様に勝弘の女で貢いでいるなら、犯行を行った可能性が高く成るからだ。
しかし、葬儀場に乗り込む訳にも行かず躊躇する二人。
しかし通夜の処に行って関係者に尋ねれば香里の住所とかが判明するだろう。
その後もう一度スナックビルの現場に向かう事にした二人だ。
(あれ誰だろう?)と天上界の美千代が二人の刑事を見て言うと(あれは刑事だよ)と勝弘が答える。
(私刑事の知り合い居ないわ、刑事が弔問に来るの?)
(違う、あれは俺の事故の調査に来ていた刑事だよ)
(貴方、酔っ払って階段を踏み外して、死んだのでしょう?)
(そうだよ、でも生まれ変わらせて貰えるらしい、早く四十九日が終わって、生まれ変わりたいよ)
(私も同じよ、生まれ変われるのよ)と二人は自分の葬儀を見ながら、蘇りに期待をしていた。
安芸津童子と画老童子は、その二人の会話を聞いて(前世を覚えていたら、悔い改めるけれど、忘れるからな)
(そうだよ、同じに成るよな)
(いつまで覚えているのだった?)
(多分言葉を覚えると同時に、過去の記憶は消えていくと思ったよ)
(生まれた時は覚えているのだな)
(でも身体が自由に成らないからな)
(この二人、さて同じ事を繰り返すかな?)と笑う。
亡くなって四十九日は彷徨が、その後新しい母の体内に宿るとお臍の穴から外が見えて、生まれると色々出来るが、言葉を覚えると同じ速度で過去を忘れる。
前世の反省から現世の充実は中々困難に成って、元来の性格がそのまま大人に成って、同じ人生を二度送る事に成る。
亡くなった時に総て思い出して、同じ事をしてしまったと後悔をするのだ。
二人の神は過去に何度も同じ事を見ていたが、眺めるのが面白いらしい。
その為今回も二人が遊びの対象にされたのだ。
泊刑事達が美千代の関係者の処に行くと香里の住所を尋ねるが、猛も純江も全く知らない。
通夜に弔問に訪れるから尋ねて下さいと言われて、仕方無く待つ事にする。
直接本人には聞けないが、同じスナックの従業員に尋ねる事に成った。
「あれは、釜江さんの葬儀場ですよ」と向こうを指さす須賀刑事「同じ葬儀場なのか?」
「香里が来たら、向こうの仏さんにも行くでしょう、それで判りますよ」
「そうだな、関係の有った元彼をもしも殺していたら、冥福を祈るだろう?」そう言いながら、椅子に座って待つ二人。
「ここで住所だけ尋ねたら、直ぐにスナックビルに行って聞き込みをしよう」
「商売の邪魔とか?」
「殺人事件なら、そうとも言えないだろう、酔っ払いが階段を踏み外したのと、突き落としたのでは大きな違いだ」と話す刑事の横に美千代が来て(えー、突き落とした?香里が?)と聞き耳を立てる美千代。
(あんたー!)と向こうの自分の通夜の場所に居る勝弘を呼ぶ。
誰も居ないから、美千代の声は直ぐに勝弘に届く。
普通なら絶対に聞こえない距離だが、関係が無い様だ。
人間世界の声は全く聞こえない?美千代は今の刑事の声は聞こえたのに他の人間が話している声は全く聞こえない?あれ?と不思議に思う。
(画老さん!)と呼ぶ美千代に(それはね、聞こうと思わないと聞こえないのだよ)と画老童子の声が何処からとも無く聞こえる。
(会いたい人を呼べば、そこに飛べるのと同じだよ、聞きたい話を聞けば聞こえるのだよ)
(成る程、便利だわ)と納得する美千代だが、勝弘が側に来て(貴方、私の店の女の子に突き飛ばされて死んだの?)
(足が縺れて、階段から落ちたけれど)
(大変、香里が貴方を突き落としたと、話しているわよ)
(ああ、少し可愛い感じがして、肩を触ろうとしたかもな?その後は転落で、判らないな?押された?突かれた?)
(変な事言わないでよ、可哀想だわ!香里が何故?こんな話に成っているのよ)
(知らない)と自分の葬儀の場所に向かう勝弘。
すると、香里が伸子と成美と一緒に通夜にやって来た。
勿論香里は勝弘の通夜の会場には見向きもしない。
釜江の名前もよく知らないからだ。
刑事が純江の合図で、香里に近づいて「少し聞きたい事が有りますので、住所教えて貰えませんか?後程お伺いします」と言った。
驚き顔に成る香里「はい、警察の方が私に何の用事でしょうか?」と恐々と聞くと「ここでは、話難いので」と言うので仕方無くメモ用紙を貰って、自分の住所を書きとめる香里。
二人の刑事は受け取ると急いで葬儀場から出て行った。
「結局本人に尋ねてしまいましたね」と須賀刑事が言うと「水商売の女性らしくないな」と関係の無い返事の泊刑事だ。
(どうなっているの?心配だわ)と言いながら自分の通夜も見学したいが、刑事が何処に向かったのかも気に成る美千代。
しばらくして、坊主のお経が始まるが本当に少人数で寂しい通夜。
最後に棺桶に安置されている自分の顔を、少ない参列者が見て「急だったわね」「安らかに」と口々に言う。
<こうしてみれば、やっぱりババアだわ>
<急にくたばって、財産持っているのに、家族葬とは、死んでもせこいババア>(今のは誰よ、こらーーー!)と怒り出す美千代だ。
(二人だわね、伸子か?香里?遅れてきた愛か?それとも他の人?)とキョロキョロと探す美千代。
そのころ、泊刑事達はスナックビルに来て、早く出勤している店に入って香里と勝弘の関係を調べ様としていた。
一階の(あげは)と言うスナックに早く来ていたのは従業員の和美で、香里と勝弘の事を聞くと、勝弘は誰でも女の人にモーションをかけるが、特定の付き合いの有る人は居ないと思うと答えて、三階の香里の事は知らないと答えた。
「香里さんは四十歳過ぎの人ですが?」
「それなら、付き合うかも知れないわね、釜江さんのお父さんお金持ちでしょう?」
「はあ、それが?」
「自分は貧乏だけれど、実家はお金持っていると話していましたから、四十超えた女性ならその話に騙されて付き合っていたのかも知れませんね」と自分は若い事を強調していた。
「今の話は、意味無いですね」と須賀刑事が言うと「誰にでも付き合うと話していたのなら、噂話も沢山有るな」と苦笑いで次の店に向かった。
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