第3話二人目の犠牲者

24-03

画老童子と安芸津童子は日本の半分を二人で分けて、担当している神様。

毎日数万人の出生に携わっていて、亡くなる人を蘇らせるのだが、殆どは別の場所の別の処に蘇る。

人間失格者の蘇りは無い、人間世界で語られている地獄の事で、蘇る人は俗に云う天国なのだ。

そうなればどんどん人口が減る筈なのだが、長生きと別の神様が新しい生命を誕生させているので、人口が増加している。

二人の神様が蘇らせる二人は他の人には無い、死後の世界が存在して自分の死後四十九日を現実の世界を彷徨えるから、実際の人には時々二人が幽霊の様に見える時が起こるが、まだこの二人は知る筈も無い。

その釜江勝弘も、二人の幼い神様に悪戯されてこの世を去ろうとしていた。

五千円札一枚でカラオケに行って、飲んで下手な歌を歌うと豹変して急に強気に成った。

この男酔うと急に強く成って、偉そうぶるからお店では嫌われる。

カラオケで飲んで歌うが大きな声を下手な歌で歌う。

殆どの人が迷惑そうで、店主も嫌っているが週に三日も来て殆ど同じ歌を歌う。

今夜も同じ歌を歌って機嫌が良かったが、団体が入って来て歌が廻ってこないので「これで釣りくれやー」と五千円札を差し出した。

カラオケ店を出ると美千代のスナックの在るビルに再びやって来る勝弘。

既に酔っ払ってエレベーターに乗り込んで、三階のボタンを押して上昇すると「俺は、何処に行くのだ」と独り言を言って扉が開くと、目の前に戸崎香里がエレベーターを待っている。

「いやー、待っていてくれたのか?何処の店のお姉さん」と声をかける勝弘を無視する香里。

知らない変な男、元来酔っ払いは嫌いで、特に早い時間から飲んで絡む男は大嫌いな香里。

美千代の急死で店に休みの張り紙を頼まれて、貼りに来ただけで帰ろうとしていたのに、変な酔っ払いに絡まれて困る香里。

エレベーターに乗れないので、慌てて階段に向かう香里。

「お、お姉ちゃん、何処に行くの?た、煙草買いに行くのか?」と尋ねるが、言葉がはっきりしていない程酔っている。

必要に追い掛けて来る勝弘「何処に行くのだよ、お姉さんのお店に今から行くから、連れて行って」と追い掛けて呼び止める。

「今夜は休みです」と振り返って言うと「嘘を言うな」と言いながら抱き着いてくる。

香里は身体をかわして右に逃げたが、勝弘はバランスを崩してそのまま階段を転がり落ちてしまった。

大きな音に二階のスナックと三階のスナックから、沢山の人が「何の音!」と飛び出して来た。

勝弘の姿を見て「大変!救急車よ!」と二階の人が大声をあげる。

驚いて凍り付く香里、一度も見た事も無い酔っ払いに絡まれて、身体を避けたらそのまま転落してしまった。

「柱で頭打っているわ」

「死んでいる!」

「息をしてない」

「血が凄い」と下から聞こえる。

青ざめる香里は身体が硬直して動け無い状態で立っていた。

「香里さん、どうしたの?」三階の隣のスナックのママが香里を見つけて問い正すと、小刻みに身体を震わせている香里を引っ張ってその場から遠ざける。

「あ、あの方が酔っ払って、落ちたのです、私は何もしていません」と身体を震わせて言う香里だが顔面蒼白だ。


天上界では(今、死んだのか?)

(今、死んだよ)

(あの子に迷惑がかかったのでわ?)

(誰も居なくても階段から落ちて死ぬ予定に成っていたのよ)

(あの子困らないか?)と安芸津童子と画老童子が話している。

目の前で肉体から離れた勝弘が呆然と佇む。

(君、もう死んだのだよ、僕は安芸津童子って云う神様だよ)と話しかけても反応が無い、頭から血を流して動け無い自分の遺体を見ている勝弘。

スナックビルの前は一瞬で黒山の人、しばらくして救急車とパトカーの音が徐々に近づいて来る。

三階のスナックに入って水を貰って、落ち着く香里に「夢のママが今朝亡くなったのだってね」

「はい、その為店を当分休むので、張り紙を頼まれて、明日通夜で明後日葬儀の事も書いて貼ってきた処に、あの男の人が私の側を通り抜けて階段から落ちちゃったのです」

「あの男の人、有名でね!お金も無いのに色々付けで飲んで評判悪いのよ、確か釜江さんって言ったかな」と隣のママの説明でようやく理解した香里だが、現場では警察が来て状況を調べ始める。

二階のママが「三階で誰かと言い争っていた様な声がしました」と証言をしてしまう。

警官が三階に上がって来るが誰と言い争いに成って居たのか聞き始める。

香里が居る店の中にも入ってくる警官が「そこの階段の騒ぎを聞きませんでしたか?」とママに尋ねる。

止まり木に座って居る香里にも尋ねるが「知りません」と二人は合わせた様に言う。

この店には誰も客が居なかったと云うより、まだ開店前だった。

警官が帰ると「助かりました、ありがとうございます」とお辞儀をして店を出る香里は、とても階段の下の惨状を見る事が出来ない。

人混みをかいくぐる様に自転車に乗って自宅に急いで帰る。

誰にも話さないで心に締まっておこう、何処から話が漏れて自分が犯人にされるかも知れないと思う不安が胸を過ぎる。

スナック「夢」の隣で店をしているのは「梓」と云う店で女性を一人雇って居て「夢」の二分の一の大きさで、ママは三十代後半の三枝美雪、従業員は五十代の森永千登勢、店は八時の開店で事件が発生したのは七時四十分、美雪は千登勢が早く来ないかと心待ちにしている。

今見た事実を話したくて、我慢が出来ない状態に成っていた。

警察には内緒にしても、大きな秘密を知ったと云う胸の高鳴りは押さえられない。

その時、素直に真実を述べていたら、香里も被害を受けなかったが関わる事が面倒でママと話しを合わしてしまったのだ。


(そんなに呆然としなくても良いよ、君は日頃から口癖の様に生まれ変わりたいと言っていたので、望みを叶えたのだよ)と安芸津童子が言うと(えー、本当なのですか?)初めて驚いた様に話した。

(これから四十九日間は彷徨える、死後の世界から自分の死後の世界を見られるのだ)

(凄い、それからどうなる?)

(新しい母のお腹に入るよ)

(それから?)

(産まれて、もう一度新しい人生をやり直せば良いのだよ!私に質問か用事が有れば、安芸津君と呼べば直ぐ来るよ、しばらくは君の死後の世界を見物しなさい)と言うと消える安芸津童子。




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