第2話あの世から見える?

  24-02

(ほんとうに、死んだの?)と尋ねる美千代、廻りには誰も見えないが(まあ、貴女の事を誰がどの様に言うか見ていたら面白いよ)

(身体が無く成ったらどうなるの?)

(母親のお腹の中に入るよ)

(えー、お母さんって昔に亡くなったわ)

(今度のお母さんだよ)

(今度のお母さん?誰よ)

(四十九日の間、色々見学出来るよ、知り合いの名前を言えば、その人の処に行けるよ)

(貴方、画老童子って名乗っていたけれど何者?)

(神様と呼ばれているよ)数分間の会話だが、美千代には何が何だか理解出来ない。

目の前では自分の寝ている部屋に家族全員が集まっている。

「お婆ちゃん、ほんとうに死んじゃったの」と驚き顔で見つめる孫の京佳、中学一年生。

(可愛い孫の成長を見たかったのに、何故死んだのよ)と怒り出す美千代に(日頃から何度も生まれ変わりたいと話していたからね、叶えたのだよ!)再び聞こえる声。

(唯の口癖だったのよ、京佳を見ていたら戻りたくなるよ)

(もう戻れません、四十九日が終わると、自動的に生まれ変わります)

(何処に行くか判らないのでしょう?)

(大丈夫です、貴女の知っている処に生まれ変わります)

(ほんとうなの?それなら楽しいかも)と急に元気に成る美千代。

(お腹の中から色々見られますよ)

(えー、そんな事が出来るの?)

(知っている処に生まれ変われて、お腹に宿った瞬間から世間が見られる?)

(はい)

(楽しみ)急に元気に成る美千代。

(それでは、自分の死後の世界を見学して下さい、知り合いの名前を呼べば何処でも行けますからね)と教えると画老童子は美千代の側から消えた。

(僕に用事の時は、画老君と呼んでくれたら、参上しますからね)と何処からともなく聞こえる。


しばらくすると次男の信樹が血相を変えてやって来た。

「お袋が亡くなったって」と枕元に来て、呼吸が無い事を確かめる。

「確かに死んでいるな、坊さん呼んだのか?」

「信樹馬鹿か!先ずは死亡診断書が必要だから医者だろう」と猛が怒る。

「今宮先生に電話したわ」と妻の純江が居間から、そう言って入って来る。

「お母さん、水泳もしていたし運動は充分だったのに、急に亡くなるなんて信じられないな」

「元気に見えても、毎日夜遅くまでの仕事で昨夜は沢山お酒飲んで、酔っ払って店の伸子さんが送ってくれたのだよ」

「そうか、葬式の準備だな」と信樹は諦めた様に言う。

猛と純江の子供は一人だけで、信樹の子供は男の子が二人、妻沙代子が今朝はパートに行ってしまって、信樹だけが知らせを聞いて飛んで来たのだ。


天上の世界では(画老!また悪戯したのね)

(安芸津!見つかっちゃったな)

(画老。あのお婆さんまだまだ元気で、生きられたのに、可哀想だよ)

(生まれ変わりたいと何度も何度も言うから、叶えてあげたのだよ)

(私達は、寿命が来た人間を生まれ変わらせるのが使命だよ、勝手にすると天使様にお叱りを受けるよ)

(天使様には内緒にしてよ、安芸津も遊んでみたら面白いよ)

(生まれ変わっても同じ事をするからだろう?)

(その通り)

(この前も同じ様な事していたよね)

(一人位違う生き方をして欲しいよ)

(寿命で亡くなれば、全く最初からだから、それで良いのでは?)

(でも一人位、異なった生き方をしないかな?反省をあれほどしているのにね)

(久々に見守る人間が出来たのね)

(まあ、期待はしてないけれどね、安芸津も一人同じ事をして、競走してみないか?)

(人間をおもちゃにするのか?)

(可能性の競走だよ)

(面白そうだな、勝った方が割り当ての仕事を請け負うのは?)

(一日?)

(五日では?)

(それは凄いな、五日休めるのか?)

(安芸津も候補の人間探して)

(探さなくても居るよ、あの男)と指を指すと目の前に姿が現れる。

(釜江勝弘、私が蘇らせたけれど、全く駄目で酒呑んでぼやくだけ、妻に逃げられて、子供は二人女の子が居るけれど寄り付きもしない、昔から何度ももう一度生まれ変わったら?が口癖だよ、それに近くだから良く見えるよ)

(よし、この男と二人で勝負ね)

(五十三歳で死ぬのは可哀想だね)

(たいして仕事してないだろう?)

(両親がまだ元気だよ、悲しむだろな)

(いい、いい!生まれ変わりたいのよ、人間は!)

二人の神様、画老童子と安芸津童子は勝手にゲームの様に決めてしまった。


決まれば早い、今夜にでも釜江勝弘は急死に成る予定だ。

美千代は医者の診断書が出て、葬儀社が自宅にやって来ると、本格的に自分が死んだ事を実感している美千代。

昨日自宅迄送ってくれた蟹江伸子が、夕方知らせを聞いて血相を変えて美千代の亡骸に対面して嗚咽を漏らした。

「昨日飲み過ぎたのが原因なの?ママ!私どうしたら良いのよ?」と泣き崩れる。

<この歳で働ける処無いのよ、困ったわ>(何よ、今の声は?)と驚く美千代。

(画老さん!)と叫ぶと(どうしたの?)と画老童子が声をかけるが姿は見えない。

(今、変な声があの伸子さんから聞こえたのよ)

(ああ、それはね、本心の声と云う物だよ、時々聞こえるから気にしないで)

(は、はい、本心の声ね、えー、悲しんでないの?)と急に我に返る美千代。

昨夜、店は借り物だから伸子が経営したらって話したのに、忘れたの?客も年寄りが多いけれど金払いの良い客多いのに、と思う美千代。

「ママは私にしなさいって言ったけれど、とても無理よ」と言うと再び泣き崩れる伸子。

しばらくして、示し合わせた様に香里、愛、成美の三人がやって来て、美千代の遺体を見て泣き崩れる。

<沢山お酒を飲むからよ、弱いのに馬鹿飲みするからくたばるのよ、早く次の店探そう>

(今のは?誰よ、恐い子ね、香里?愛?成美?)と三人の顔の近くまで行く美千代。

しかし、誰が思っているのか判らない。

人の気持ちは判らないわね、今までの恩は無いのかねと怒っていると「ママ、何故急に死んだの」と号泣を始めた成美。

この子は違うね、この涙は本物だと喜ぶ美千代。

先程の心の声は愛か香里のどちらかだわ、悪い子を雇っていたのね。

(画老童子、懲らしめる事は出来ないの?)

(出来ませんよ、聞くだけですよ、美千代さん生まれ変わったら一番にする事は?)

(そうね、勉強するわ、学歴が人生を決めるからね、それと男前には目を向けない)

(頑張って下さいね、私の仕事も懸かっていますからね)と意味不明の事を言う画老童子。


その日の夜、釜江勝弘はいつものスナック(葛)にやって来て「カッちゃん、駄目よ!この前の付け払わないと飲ませないわ」ママが釘を刺した。

「そんな事言うなよ、一杯だけ飲ませてよ」

「駄目!」と強く言われて、近くのカラオケ喫茶に向かう釜江、まさか今夜死ぬとは本人も考えては居ない。

ポケットに手を入れると五千円札一枚、それでも飲みたいのだ。

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