海へ。(いち)

(思ったより長くなりそうです。だって始まるまででこの量……。なのでいくつかに分けて掲載します。)



 コミックマーケットに、参加してきました。

 買いものをするためでなく、とあるかたに会いに。



 もうずっとそわそわわくわくしてしまって、夜もなかなか眠れませんでした。いろいろ考えてしまったり、いろいろ思ってしまったりして。そういうわけでわりあいはやく起きてしまって、だからわりあいはやく家を出ました。お盆の朝の商店街は、沈黙を守っていました。それはもう、清々しいほどに。それで私はなんだか嬉しくなってしまって、大きく手を振って歩いてみました。そういう妙に子どもじみたところが、じっさい私にはあります。ホールデンじゃないけれども。


 二回ほど乗り換えをしなければならなかったのですが、乗り換えをスムーズに済ますことのできる私は都会人だなぁ、と思いました。だって以前(*純群馬っ子時代)は、乗り換えって概念が理解できなかったもの。「え、電車ってんは乗りゃあ連れてってくれるんでしょ? なんで降りてまた乗る必要があるん?」とか、言ってた気がする。……私ってやっぱり、地方の子だったんだなぁ。

 やっぱり東京メトロは、お洒落です。全体的に洗練されている。機能的なうつくしさが、ある。ただそれゆえの不安みたいなものも、清潔な白いホームに充満しているけれども。無駄がないというのは、それだけで不穏なものだと思います。そしてどこか、空虚な。

 そしてりんかい線。まず、りんかい線って名前が良い。りんかい、ってところが良い。海に臨む。ひらがなってところがまた、わかっている。なんと言うか、希望に満ち溢れた名前です。Von voyage!って雰囲気がある。良い航海を!そう、りんかい線は、電車でありながらひとつの船だ。だって海がみえるのだもの。それにだって、りんかい、だもの。なんて思いながら、窓に貼りついて景色をじいっとみていました。たぶんにこういうところも、ちょっと子どもじみているのかも知れないけれど。

 飛行機が、ごうと飛んで、あれは魔法だと、やっぱり思います。だってあれは、人の想像力を超えているもの。鉄の塊が飛ぶなんて、誰が想像できたろう?

 従妹のマンションを発見したりもして、ちょっと嬉しくなっていました。今年の誕生日は、従妹の家で過ごしたんです。だからけっこう、馴染みのある雰囲気。おそらく彼女たちはコミケと関係なく今日も平穏に暮らしているのだろうなぁ、なんて、ちょっとアンニュイな気もちに。

 なんて考えていたら、あっという間に国際展示場の最寄り駅についてしまいました。なのでここで、携帯電話をしまいました。このときたぶん、10時前後。人の流れに乗ってって、きょろきょろと周りを見回していました。わあ、きちゃった、「世界的規模」のイベントに!だってだって、世界的規模。世界的って、凄いです。

 そしていよいよ、国際展示場へ。


 まず気がついたのは、人のわりに、とてもしずかなこと。喧騒が控えめで、ぜんぜん耳につかない。ひとりで参加しているかたが多いんですね。まあそうだよなぁ、と納得。いろいろ買いものがあるものね。

 そしてつぎに気がついたのは、男のかたが多いなぁ、ということ。まあこれも、納得。コミケの知識くらい、ありますよ。

 警備員さんとか、チラシ配りのお姉さんとか、大変だなぁと思いつつ、流れにつづいてゆきました。このあたりで、ちょっと暑くなってくる。足が焼けそう、と思いつつ、緑茶を飲んでは、かつかつと歩きました。それとどうやら私はたのしくなると、ざくざくと歩く傾向があるみたいです。大きく手を振って、たんたんと地面を叩いて。ワンピースのときなんか、とくにそう。そうじゃなきゃ、損な気がしてくる。

 思ったよか空いてるじゃん、と思いながら、進んでゆきました。とてもしずかな人の波のなかを。


 そして噂の、入場待機列につきました。

 それはもうこの世の終わりだ、ときいていて、公式サイトをみても「初心者はせいぜい午後にくることだな」みたいなものものしい警告があって、だから私は、そうとう覚悟をして行ったんです。きっと、タイタニックのボートの取りあいなんだ。宇宙戦争のかごのなかなんだ。だからもう、決戦に挑む覚悟できたんです。

 だから、あんがい、大丈夫だった。だって誰も叫んでないし、押しあってもないし、生き別れになってもいない。むしろとても平和に、律されている感じがしました。もちろん私も律されて、それは小学生のころ、背の順で並ばされたことを思い出しました。いやでもほんとに阿鼻叫喚地獄絵図じゃなくて、私は安心しました。

 潮風に吹かれ、帽子を片手で押さえながら、海なんて眺めて進みました。淡い色あいの海が、きらめいている。目を細めてみていました。

 そしていよいよ立ち止まりました。待つのって、歩いているうちは良いのだけれど、止まるとちょっとつらいものがあって、急にじりじりと焼かれる感じがして、てらてらと反射する光で本もろくに読めなくて、さてどうしたものかと思案していました。

 すると、隣に並んでいたかたが話しかけてきてくれて、いろいろとお喋りさせてもらいました。関西の言葉は、確かに迫力みたいなものはありましたが、とても耳ざわりの良い言葉でした。それで一時間近く、わりとあっという間に過ぎました。ありがとうございました。とてもたのしかったです。


 スムーズに建物のなかに入り。ついに目当てのブースに向かうことにしました。もうここらへんで、私の緊張と期待は絶頂ですよ。わくわくどきどきと、していた。交流はあったのですが(控えめに言ってですよ)、じっさいにははじめて会うかただったんです。

 高鳴る鼓動を感じつつ、いよいよ奥へ、入ってゆきました。

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