ジナイーダ。

 ツルゲーネフの『はつ恋』を読んでいるのですが。


 ジナイーダが、魅力的すぎる。


 語り手であり16歳のウラジミールは、年上の令嬢ジナイーダに恋をします。ウラジミールの視点からジナイーダは語られているのですが、このジナイーダという女性、凄いです。

 柔らかく微笑んだかと思えば、人をあざけるように笑ってもみせる。周囲の男性たちが自分に恋しているとわかっていて、彼女を中心としたどんちゃん騒ぎを毎晩行う(まるでお姫さまのように彼女はいつでも中心にいる)。男性たちを「みんな鎖につないで、自分の足もとに飼っていたわけなのだ。そうした男たちの胸に、あるいは希望を、あるいは不安を呼びおこしたり、こっちの気の向きよう一つで、彼らをきりきり舞いさせたりするのが(それを彼女は、人間のぶつけ合い、と呼んでいた)、彼女には面白くてならなかったのである。(本文より)」

 人間のぶつけ合い。なんて傲慢な。ぐっと来ました。

 この徹底的な、根本的な自信。悪びれる様子など一切なく、人を弄ぶ無邪気さと残酷さ。彼女は徹底的に残酷です。そしてそれを楽しんでいる。

 一見穏やかで、甘酸っぱく思えるこの『はつ恋』という作品。そのなかに、こんな強烈な女性が潜んでいたとは知りませんでした。

 ジナイーダ。その笑顔がしばらく頭から離れなさそうです。


 まだ読了していないので、これから読みます。つづきがとっても楽しみです。ジナイーダを追ってゆくのが、とくに。



 ところで新潮文庫の『はつ恋』の表紙ですが、幻想的で素敵です。清宮質文に通じるものを感じる。この絵の作者について、細かく調べてみようかなぁ。

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