第4話 可奈子
なんとなく品がある。
湯船に浸かりながら、可奈子は、ぼんやりと凛子のことを考えていた。
決して華があるよう顔立ちではない。
しかし、彼女を目の前にすると、
自然体でありながら、持って生まれたセンスや美しさのようなものを感じてしまう。
透明感のある陶器のような白い肌。
すらりと長く伸びた腕。
整った歯並びは、白く美しい。
知的さを感じる穏やかな話し方。
彼女の醸し出す雰囲気は、悔しいけれど、
きっと「美人」の枠に入るのだろう。
彼女と働き始めて数ヶ月。
社内の雰囲気も少しだけ変化があった。
これまで、なかなか進むことのなかった事業が動き出したのだ。
避けて通っていた面倒な作業を彼女は、何食わぬ顔で片付けてしまう。
そんな彼女の仕事に対する姿勢は、少なからず社内に影響を与えているのだろう。
なぜなら、新規事業に悲観的だった社長が、今やこの事業に本腰を入れるまでになったのだから。
これまで私が、
私だけが、
社長をうまくコントロールできると確信していた。
それが、彼女という存在が私を惨めな気持ちにさせる。
うわべでは、よき先輩として接してはいるけれど、
学歴も、経験値も彼女の方がはるかに自分の上を行っている。
その上、私よりも女性として惹きつける魅力があるのだから、
比べまいと思ってはいても、どうしても自分の方が劣っているように感じてしまう。
そんな彼女が今日ランチに誘ってくれ、
不意に私の体型を褒めてくれた。
「可奈子さん、体型はどうやって維持されているんですか?
私、最近、全く痩せなくて(苦笑)」
もう45歳になるが、体型だけは、20代の頃から変わっていない。
食べても太らない体質ということもあるが、
毎晩の、簡単なストレッチや筋トレは学生時代から習慣になっている。
自分が着たいと思った洋服を着ることができなくなるのは嫌だし、
何よりも裸になった時に、だらしない身体を晒したくないのだ。
「えー!凛子さん、私が体型維持してるって事、わかるの?!」
ずっと、この体型だったので、古くからの知り合いは私が体型維持のために努力しているなんてことは思っていないだろう。
彼女が、私の体型が、努力の賜物だという事に気がついてくれたのが凄く嬉しかった。
嬉しすぎて体型だけではなく、昔から変わらないファッションへのこだわりや、
お肌に負担をかけないためのメイク術など、あれこれ彼女に教えてあげた。
そんなにもこだわりを持っていた事に、彼女は少し驚いたようで、感嘆しながら興味深く聞いてくれた。
この年齢になると、なかなか相手の年齢は聞きにくいのだけど、
私の方が、彼女より年上だという事も、今日初めて教えてあげた。
もちろん自分の方が年上だと思っていた彼女は、目を丸くして驚いていた。
昔から、体型やファッションが変わらないせいなのか、実年齢よりも若く見られる。
実年齢を口にすると、皆、決まって驚くのだ。
その反応が、いつもながらではあるのだけど、凄く嬉しかったりする。
そういえば、体型維持のトレーニング方法を彼女に伝えたかしら?
他の話に脱線してしまって、肝心なことを伝えていなかった!
きっと、今頃、体型維持のことが気になっているに違いない!
可奈子は、お風呂から出ると慌ててパソコンを開いて、お詫びのメッセージと共に、トレーニング方法について事細かに記載したメールを凛子へと送信した。
女の戦力外通告 はるかぜサクラ @maco5024
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