第3話 凛子
なんだか本音では話すことができない。
少し甲高い声で、まくしたてるような早口も、自信に満ち溢れたような振る舞いも、どうしても苦手だった。
仕事だけの付き合いではあるけれど、彼女と二人きりの空間は、いつも居心地が悪く構えてしまう自分がいる。
以前、ランチに二人で出かけた際、会話に困り、半ば何も考えずに、彼女の体型について褒めたことがあった。
いつもタイトな装いをしている彼女は、筋肉質でアスリートのような無駄のない体型をしている。
一方で、流行を取り入れたファッションとは程遠く、メイクもほとんどしていない。毎回、制服かのように地味な色合いのパンツスタイルのため、ぱっと見は、貧相な体型に見えてしまうのだが・・・
「可奈子さんは、どうやって体型を維持されているのですか?すごく鍛えていらっしゃる雰囲気ですよね?!」
会話に詰まって、つい何の関心もなかったが、その場をやり過ごすために、そんな質問をしてしまった。
「えーー!わかる?!
わたし、こう見えて凛子さんよりも年上なのよ」
どうでもいい質問に、予想以上に食いついてきたため、一瞬苦笑いしてしまった。
この愛想笑いに、彼女は気がついたのだろうか?
いや、そんなことよりも、自分の方が、年上に見られていないであろうと思っていたことが衝撃だった。
どう考えても、わたしよりは、年上であるという確信を持って数ヶ月を過ごしてきていた。
今更、自分の方が年上と言われても、どう返していいものか・・・
「へーー!可奈子さんより、
私、年下だったのですね!びっくりです!」
これが正解かどうか・・・
全く気持ちはこもっていないが、おそらく彼女的には、大満足の様子だ。
聞いていない、服装や、美意識へのこだわりについて次から次へと話は進む。
最初から興味がないのだから、内容はほとんど脳内を通過して行くだけだ。
私は作り笑顔で、要所要所で、相槌を打ちながらやり過ごしていた。
私についての質問は一切ない。
自分自身の話をひたすら続ける。
そうそう、そうだった!
彼女は、常に根拠のない自信に満ち溢れている。
その自信はどこからくるのか?!
未だにわからないが、一つはっきり解ったことは、
「私は彼女が苦手だ」ということ。
そう確信をもって帰路につき、就寝前にメールを開くと、彼女から
「体型維持について」
という件名で、日々、どうやって体型維持を心がけて、トレーニングをしているのかという内容の長ーーーい文章が届いていた。
そういえば、お昼は、体型維持の話をふるも、それ以外の話に白熱していたんだった。でも、今更、どうでもいい!
彼女の執念たるや!
とても読む気にもなれず、
「あーー、やっぱり私は彼女が心底、苦手だ」と思いながら眠りについた。
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