石遊び

定食亭定吉

1

 平日、満員電車に揺られ、多くの通勤客に紛れている僕。まるで、石ころの一人だろう。しかし、愛するあの子にとっては宝石になれる僕。都心へと。石としか表現不能な線路の敷石。ぼんやりとそれを眺める僕。モノレールや地下鉄には敷石はないと感じてしまう。そんな事を想い、今日も職場へ来てしまった。

「おはようございます❗」

自席へ着席し、パソコンを立ち上げている。ぼんやりと画面を見て、早々に欠伸をしている僕。適当に仕事をこなす。あっという間に退勤時間はきた。

 定時で時間があったので、あの子を喜ばすために宝石を買う事を試みたが、花より団子である事を思い出した。故にすぐに帰宅する事にした。

 何となく気分がよかったので、有料特急に乗ることにした。いつも眺めている車窓が違うように思えてくる。特急で三十分、最寄り駅へ到着。駅から徒歩数分、同棲しているあの子が待つ家へと急いだ。

「お帰り」

寝巻き姿で迎えてくれた。いとおしく、すぐに抱き合った。

「ただいま。今日は何?」

「豚料理よ!私の事でないから」

自虐ネタのあの子。

「じゃあ、牛料理?」

「チキン料理よ。あんたみたいな」

「臆病という事?」

「そうよ。でも臆病だけど、そんなところが好き」

僕の目を見つめるあの子。

「あんたにプレゼントがあるの」

箱を二つ差し出すあの子。キッチンのテーブルに着席。

「さあ、どちらのプレゼントを選ぶ?高価な宝石と世界唯一の石」

「世界に唯一の石」

「さあ、箱を開けてごらん」

「うん」

箱を開ける僕。そこにはなぜか、オセロが入っていた。

「世界に唯一でないでしょう?」

つい否定的になってしまう僕。

「そうよ。オセロで勝負つけたいと思って」

「よくわからない」

「今夜こそ、白黒付けたいなと思って」

「ごめん。今日は疲れているから」

面倒くさくて言ってしまう僕。

「逃げる気?」

子供のような挑発だった。

「じゃあ、一回だったらいいぜ」

「わかった。じゃあ、やろう!負けたら何してくれる?」

「。。。」

「結婚してよ!」

「えっ?」

何を言っているのかわからない僕。

「その前に、残り一個の箱を開けてよ」

残された箱を開ける僕。

「何も入っていないだろう!」

「そうよ。あんたを試したの❗」

僕はあの子にとって、宝石になれているだろうか?

「取り合えず、オセロをしよう!」

早く眠りたかった僕。

「うん」

オセロを始める僕ら。どんどん、あの子に攻められ、瞬殺される僕。

「約束通り結婚してよ!何も要らないから」

真顔で言うあの子。

「うん。約束だから!たまには一緒に眠ろう!」

次への算段のために僕らは一緒に眠る。お互い、恥ずかしいから、おどけて、オセロなんていう石遊びで結論を出した。互いに異性からはモテるタイプでない分、互いに宝石になれるパートナーだった。

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石遊び 定食亭定吉 @TeisyokuteiSadakichi

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