第132話 厳しくも優しい命の母と甲斐甲斐しい少女

(うっ、ここは……体が動かない、まぁ仕方ないか、あれだけの規模で力を行使したんだからな、死んだか脳と体を繋ぐ神経が逝ったんだろう)


 ゼノの行った自己認識で、自分は闇の空間に居て体を動かせず、意識だけが自由にものを考えられるだけ。

 並の人間ならいずれ精神に異常をきたす状況なのだが、彼は平然としていた。


(まるでガキの頃に戻ったみたいだな、あの暗く狭い部屋だけが俺の知る世界で、何も考えずにただ横たわって呼吸をしているだけだった……あの部屋に戻ったと思えば何も感じないし、俺がまだ死んでないんだとすれば治療開始してくれているだろうからな、死神が迎えに来るのか体が動くようになるのか、期待せずはに何か変化を待つか)


 常日頃のヘタレチキンとは裏腹に、他人が介在しない状況での強心臓は超人的なゼノ。

 むしろこれだけの強心臓だからこそ30年の間、狂わずに卑屈になる程度で済んでいたのかもしれない。


(ゼノ、聞こえますかゼノ、聞こえていたら返事をしなさい)

(この声はラケルか、生産人形のあいつだから生活魔法に干渉して俺の精神にアクセスできたんだろう。おいラケル聞こえるか、俺だゼノだ、あと5分!)


(……冗談をさえずる余裕はあるようですね。今貴方の体は人の理から外れ、神に近いものに作り変えられています。予定では力の行使はもっと小規模におさえるはずでしたし、入口を全力で広げなければこうなる事もなかったはずですが、何か弁明はありますか?)

(……)


(黙秘しても構いませんが神となったらほぼ不滅ですから、星が死んで肉体が滅びるまでの間、永遠とも言える時間お説教を続けてもいいのですよ)


(すいませんでした説得に失敗して諦めの中でも仕事をしようと気合を入れたら予定も忘れて全力全開で生活魔法を使っていました反省してます助けてください勘弁してください永遠お説教は嫌だーーーーーー)


「あーーーーーーーーーー!!」

「ゼノさん!」


 ゼノは気が付けば自分が上半身裸でベッドから飛び起きて、それを確認したミラに抱きつかれていた。


「よかった、目が覚めたんですね」

「ここは……俺の部屋か。ミラ着替えをす」

「お手伝いしますね」

「いや自分でできるから部屋から出ていっ」

「お・て・つ・だ・い、しますからね」

「あっ、がい」

(いって、ミラの迫力に押されて舌噛んじまった)


 △△▽▽◁▷◁▷


「ラケル様はゼノさんが神になるのを防ぐために、亜空間じゃなくて能力の方の生活魔法の中に戻ってしばらくは出てこられないそうです。ゼノさんが神に近付いて五感も心肺機能もなくなっていたんですけど、ラケル様のおかげで人間の体に戻っているはずです」


 目を閉じ亜空間に意識を集中すると、確かにラケル的な感じが亜空間ではなく、自分の中の生活魔法の方から感じられる……気がする。


(おーいラケル聞こえるかー、あと5分?)

(いえ、もう終わりましたから、出ます)

(へっ?)


 この時ゼノの危険察知能力はラケルに押さえつけられ発動しなかった、だから反応できずにまともに受けてしまった。

 胸骨の辺りが光輝くと体内からラケルが飛び出してきたのだ。

 とある光の巨人の右拳を突き上げたポーズで。


 ガッ!


 その拳はモロにゼノの顎にヒットし頭を仰け反らせ、続く頭突きの衝撃が逃せなくなっていた。


 ゴッ!


 瞬時に2連続与えられた衝撃は容易にゼノの脳を揺らし、脳震盪によって彼を気絶させた。


「わーっ、ゼノさん!? 大変!」

「待つ人が居るのに考えなしに人間を辞めようとした罰です、今後はもっと考えて行動なさい」

(悪い)


 ラケルの指摘への謝罪、この程度の罰で罪を精算してくれた事への感謝、仲間達への謝罪。

 薄れゆく意識の中でその一言だけを思うと、ゼノは倒れる前に駆け寄って受け止めてくれたミラの腕の中で気絶した。

 その顔は安心しきった子供のような穏やかさで、ゼノ大好き無限大なミラのハートをキュンキュン締め付けたのだった。

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