第129話 ヒーローの背中3

 ネフラスカによる対応と魔物との戦いはおおよそゼノ達の予想通りに進んだ。

 美女や権力者に買われた戦闘力の高い戦士は、彼等を守るためと言い訳をして死にたくないから屋敷の周辺を巡回して引きこもり。

 買われる程の力がない戦士達は政治的に退路を塞がれ魔物の群れに突撃し、成す術もなくことごとく死んでいった。

 そしてもう間もなく、ネフラスカには阿鼻叫喚の地獄絵図が訪れようとしていた。


「そろそろか?」

「良いんじゃねえか?」

「僕もそう思います」

「なら、戦闘班は出てくれ」


 サリアとダイゴローの賛同を得たので今回の戦闘担当5人に作戦の遂行を頼むゼノ。

 個人にどうこうできる規模の魔物の集団ではないと見捨てても良かったものを、自分の我儘わがままで命を賭けてもらうのだから頭を下げる。


『いってきます』

「いってくるぜ」


 事が済めば帰ってくるのだから余計な言葉は必要ないと、日頃と変わらぬ態度で亜空間を出ていく5人。


(やはり俺は仲間に恵まれている。だからこそ、みんなを危険に晒すに見合った働きを俺もしないとな)


 砂漠の状況を確認すると逃げ場所にもなるサンカイオーに乗ったミラを中心に左からジュディス、フェリシア、ミラ(半人型サンカイオー機乗)、サリア、ダイゴローの順だ。

 非常事態が発生したならばジュディスがフェリシアを運んで、サリアが連接剣をダイゴローに伸ばして巻いて回収する手はずになっている。

 戦闘面での心配はなに1つとしてない、あるのは自分がたった1人で、どこまでネフラスカ住人の心に訴えかけられるかにかかっている。


 人間不信の自分が、した事もない人前での大演説をしなければならないし、最悪を想定して奥の手の使用も考慮し準備もしておいた。


(もしかしたら俺は今日、人間を辞める事になるかもしれない……)


 それでも、この国に居たもう1人の自分と言える境遇のフェリシア、故郷が滅びると知りながら、自分が国民性が気に入らないからと彼女に故郷を見捨てさせるなんてできない。


(また30の若造と言われる様な年齢だが、生まれた時から不幸な目にあい続けていた。だかはもう俺はそれほど大きく人間性を変える事なんてないだろう。けれどフェリシアはまだ歪んでいなかった、あれだけの仕打ちを受けて殺させる直前であったのにも関わらず、今でも彼女は真っ直ぐに澄んだ瞳をしている。だったらその瞳を守るために全力を尽くすのが、年上の、卑屈に曲がってしまった俺にできる、ただ1つのお節介だ!)


 決意を固めると亜空間から出て、広場に面した建物に持ち出した梯子はしごを立てかけて登っていく。

 地面に亜空間の入口を開けて梯子を落下させ回収すると、ドーガンに頼んでおいた拡声器メガホンを口に当て、大声で語り始めた。


「聞け、同士ネフラスカの諸君!!」


 語りかけるゼノと、突然の大声に集まる視線。視線の集まる先にはれする様な美男子が建物の上に立っており、その肌はまるで何度も何度も丁寧に丁寧に日焼けして染め上げた様に美しく、ネフラスカの民と同じ褐色をしていた。

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