第130話 救いはする、ただ見捨てるだけだ
「今この国は滅びの時を迎えようとしている。力ある戦士は未来を見ようとせず街の中で引きこもり、街が滅び逃げ場を失ってからようやく、戦う時を逃したと思いながら星の数の魔物に蹂躙されて散るだろう……女は誰しもが美を競い合い働かずして男にだけ労働させて、男は戦士として強くなったなら引退して権力者に囲われる。働いているのは戦えない男と戦える若い戦士だけだ」
「それがなんだって言うのよ、当たり前の事じゃない」
「何よ何よ、ちょっと顔が良いからって国と女に逆らうっていうつもり?」
ネフラスカの女性にちょっと顔がいいと言われて少し傷付くゼノだが、それどころではないと心を奮い立たせて演説を続ける。
「そうじゃない、俺はこの国の未来が心配だから気付いて欲しいだけだ、今これだけ魔物に囲まれてるのはなぜだ!? 戦士が少なくて狩らなかったせいで増えたんだ。弱い魔物が狩られずに増え、それを餌にする強い魔物が増え、増えすぎた強い魔物が弱い魔物を食い尽くしたから、次の餌として人間を狙っているから、餌に飢えた魔物の群団が迫ってきているんだ!」
「さっきからなんなのよ、さっさと結論を言いなさいよ! バカにしてるの!?」
ゼノは広場で喚いている女を
「このままこの国が変わらなかったら今回助かったとしても、また遠くない未来で同じように魔物の大量発生が起こり、減った国民では対処しきれずに確実に国は滅亡し人々は魔物の餌となって死に絶えるだろう。だから今しかない! 今俺達がこの国に滞在しているこの瞬間にお前達は変わるか滅亡するかの選択を、運命によって迫られているんだ!」
「煩いわね、もう何でもいいからさっさと魔物を殺しに行って殺されてきなさいよ、私達女のために死んできなさいよ!」
ヒステリックな女の声にゼノの心は冷め始めていたが、今も戦い続けている仲間のためにと最後の1線は踏み越えないように無意識の内に心にブレーキをかけていた。
「聞こう、他の人々も今の声と同じ意見なのか!?」
「当たり前じゃない、私達が間違ってるなんてありえないわ」
叫ぶ女の声は無視して広場を見渡すが誰も声を上げない。
反対意見だけでなく、賛成意見も。
この国の人間達は危機的状況に陥りすくいの手を差し伸べられて、ようやく善性を持ち始めたのかもしれない。
まだ迷っているのかもしれないが、旧体制に賛成しなかっただけでも変化の兆しだと思えた。
(正直もうこの国には関わり合いになりたくない、愚者の集団ではない可能性が僅かに見えた、あとはその可能性に賭けるという事にしてこいつ等との関係を切るか。誰が親かは知らないが、こんな奴等からでもフェリシアみたいないい子が生まれたんだ、今は滅ぶべきでないから俺達が居合わせたんだろうし、次で滅ぶか生き残るかは本人達次第だ)
「お前達がこの女に賛成しなかったから1度だけ俺達がこの国を救ってやろう、だが次はない。周囲の国々もこの国の下劣さに気付き見捨てるようになるだろうからな」
足元に亜空間の入口を開けると落下してゼノの姿は消え、直後に魔物の押し寄せる方角へと向けて飛び立って行った。
その姿は金色に光輝き後光を背負っていた。
「神様」
「俺達は神に見定められ、命の代わりに見捨てられたのか」
誰かのつぶやきは、広場にいる全員の心の代弁でもあった。
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