第121話 閑話 ユニ君とテノンちゃん2

 同じベッドで横になっているテノンの胸の中で大泣きして眠った翌朝から、ユニは精力的に動き始めた。


 ドワーフの国ホイデルトは西の大森林を北に迂回して、長距離強行運送装甲寝台バス(戦車装甲の宿泊列車サイズの自動車)によって、魔人の国ベベルペルべとの国境の空白地帯を行くのが、庶民には唯一の手段となっている。

 戦闘万屋なら迫り来る魔物を排除できるので徒歩でも可能なのだが、生憎2人に必要なだけの戦闘力はなかった。


 通称長距離バスには手荷物やトランク程度しか持ち込めないので、少しづつ家財を売りながら万屋として下水道の害虫害獣退治をして貯金した。


 この世界ではレベルアップに似た概念がある。

 それは劇的なものではなく日々成長し続け気が付けば、という程度。

 その方法も魔物の討伐のみと非常に限定的だ。

 更に1日でドラゴン100体狩ったぜ俺のレベル爆上がり〜、なんて事にはならない。

 何故か1日で強くなれる上限が決まっているのである。

 成長量を調べようと毎日スポーツテストを続けていれば、10日20日でようやく誤差じゃないかも? と気付く程度。


 命を賭けて求めるにしてはあまりにも上昇量が少な過ぎた。

 故に危険と報酬と成長性が割に合わないと戦闘万屋に人気はなく、ドラゴン討伐等の華々しい成果を喧伝しなければ人は集まらないのだ。


 それでも夢を諦められなかったユニはその僅かな成長を求めて、休む事なく下水道へと通い続けた。


 △△▽▽◁▷◁▷


 朝、自作の防護服を身に纏い指定の下水道へと入ってはこれも自作した毒餌をばら撒き、午後からリアカーを引いて毒餌で死んだGやドブネズミを回収。

 麻袋に纏めてリアカーに乗せるとギルドで量り売り。

 毒餌の匂いが余程美味そうだったのか、材料費を差し引いても連日かなりの収入になった。


 30日で目標金額には到達したが、2人で相談して予備の資金も用意しておく事にした。

 そこから更に10日働いてから寝台バスを予約した。

 魔物が蔓延る危険な都市外を行くので必要ではあるのだが、快適な旅にはならないので利用者が多くなく人気のない寝台バス。

 なので予約もキャンセル待ち等せずに取る事ができた。


 △△▽▽◁▷◁▷


 何もなくなった部屋を出て、部屋の確認を終えた管理会社の社員に鍵を渡す。


「はい確かに、受け取りました」

「部屋を貸していただき、ありがとうございました」


 テノンは挨拶を終えると荷物を持ってユニと歩きだす。

 予約した最後尾の防音が1番高性能な部屋に向かって。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る