第120話 閑話 ユニ君とテノンちゃん

「ユニ君、いっぱい泣いて反省したら、また明日から頑張ろう?」


 初めてまともに万屋のチームに入れた、人生で初めて恋人ができた。

 その事に浮かれて無意識のうちに調子に乗って、ユニは自分が必要とされているのだと勘違いしてしまった。


 だから自分としては少し悪かったかなと思いつつも、ここは退籍をチラツかせればチームの皆は僕を引き止めるだろう、もしかしたら恋人になったばかりのテノンちゃんもチームに入れてくれるかもしれない。

 つい、そんな打算も持ってしまった。


 その結果がこれだった。

 チームからは除名され、できたばかりの恋人にも自分の汚い部分を見せてしまった。


(こんな汚い人間、捨てられても仕方ないよね)


 そう思って泣いていたのに、恋人からは思いもよらない言葉をかけられた。

 言葉にならない思いが胸に溢れてきて、嬉しくて悲しくて消えてしまいたくて、様々な思いがごちゃまぜになり、更に泣き続けた。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 宿の契約も切ってしまったので今夜寝る場所を探さないとと、泣き止み少し落ち着いた頭で考えていたら。


「ユニ君、泣き止んで落ち着いた?」

「えっ? あっ、うん……」


「大丈夫、人間なんだもの少しくらい間違えたり汚い部分があって当然なんだよ? だからボクはそんな事くらいで、折角できたばかりの恋人と分かれたりしないよ」


「あっ……ふぇーーーーーー」

「あー、よしよし。ユニ君は泣き虫だなぁ」


 1度は泣き止んだユニだったが、テノンの優しい言葉に胸打たれ、抱きしめられながら再び泣いてしまった。


 その様子を部屋の鍵を閉めたいギルド職員が迷惑そうに、何度も確認しては職務に往復するのを繰り返していた。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「もう恋人なんだしさ、うちにおいでよ」


 そう言われテノンの借りているアパートの一室へと転がり込んだユニ。

 深夜泣いて入浴して恋人と同じベッドに入って慰めてもらった後。


「テノンちゃん僕決めたよ、ドワーフの国に行って誰かに弟子入りしてくる、だからテノンちゃんも一緒についてきて欲しいんだ。絶対何年も帰って来れなくなるから、初めての恋人と離れたくないんだ。間違いなく苦労をかける事になると思う、だけどきみみたいに魅力的なを1人残して行くなんて、雄の本能がするなって騒ぎ立てるんだ。自然消滅とか誰かに奪われるとかしたくないんだ、苦労をかける分も必ず幸せにしてみせるから、テノンちゃん僕についてきてください」


「ユニ君……はい」


 こうして男だと勘違いされたままホテルインした王子様系年上女子は、4歳年下の新米彼氏のために自分の人生の全てを賭けてみる決意をしたのだった。

 答えてくれた彼女の気持ちが嬉しくてユニはまた泣いて、泣き疲れて眠ってしまった。

 今度は絶対に自分からは裏切らないと心に決めながら。


(惚れた弱味かな、まぁボクがお姉さんな分、ユニ君が間違ったらしっかりと正してあげれば良いよね)


 どうやらユニはかなり良い女を恋人にしたようだ。

 しかし彼がそれを実感するのは、まだまだ先になるのかもしれない。

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