第119話 人員補充完了?

 うつ伏せに横たわり気持ち悪い笑い方をしていたドーガンが復活したので、彼の指示に従って内部の設備を充実させていくゼノ。

 熱を一切逃さない炉や伝説の金属よりも硬い金床代わりの台等、頑丈さが求められる動かさなくてもいい設備は全て亜空間素材で用意した。


「約束通りここの設備を自由に使う代わりに、お前さん達の用事を最優先に行おう。なんもかんも姐さんの狙い通りのような気がするが、怒るどころか感謝しかないわい」


「ならジュディスの所に行くぞ」

「なっ、何故じゃ、何故これだけの設備を前にお預けされねばならんのじゃ!」

「そもそも鉄も炭もねえだろうが……」

「ぬっ、そうじゃった……ならば切り替えてさっさと必要な物を集めに行くか。姐さんに筋を通してからじゃが」


 あまりにも興奮し過ぎたため、自分の鍛冶場がアップグレードしたような感覚で話していたドーガンは、この場には材料も燃料もないのを失念していた。

 だが打ち上がった剣が駄作なら折ってまた作り直すかのように、即座に気持ちを切り替えて恐怖の大お……昔も今も世話になり続けて頭の上がらない人物に、感謝を告げに行こうと提案した。


「よし行くぞ、舌噛むなよ」

「へっ……?」


 言うや否や飛翔すると軽く浮き上がり、ドーガンまで短距離高速飛行に同行させた。

 器の小さな男の小さな仕返しだった。


「あああああああああああああああ!!」


 ただし、効果は抜群だった。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 一方ジュディスはウーリロを連れラケル農園にやって来た。


「ラケル様ー、この子はウーリロちゃんって言いまして、農園でお手伝いしたいそうです。ウーリロちゃんこの方はラケル様、元は世界樹の分け身で今はゼノさんの能力の一部になっていて、農園の管理者をなされているわ」


「始めまちて、ウチウーリロと申しましゅ。遠くからこの農園を見て一目惚れしてしまいまして、是非ともここで働きたいと思ひまして、よろしくお願いしま"……いたひ」


 世界樹を前に緊張し過ぎて舌が回らず噛んでしまったウーリロだったが、ラケルは世界樹の時からそんな人間を見慣れているので気にしていない。


「顔をお上げなさい貴方が望みゼノが許可したのなら、今日から私達はこの世界に住まう仲間になるのですから、仲良くしてくださいね」

「はっはい、よろしくお願いします世界樹様!」

「私の事はラケルと呼ぶように、いいですね」

「はいっ、わかりましたラケル様」


 丁寧な物言いをして次からは敬語を外して立場の違いをわからせる、長きに渡りエルフ社会を観察してきたラケルにとって、この程度の話術等造作もなかった。

 ウーリロからすれば世界樹相手なのでそれも当然の事と受け止め、憧れの上司と農園の従業員としてスルリとラケルの配下に加わるのだった。


「ではジュディス、ウーリロに万能薬と神薬作りと効果を教えてあげなさい」

「はいー、わかりましたー。さっ、ウーリロちゃんこっちよ」

「えっ? あっ、はい!」


 去り行く2人の背中を見ながら手先が極端に不器用な元世界樹の枝は思う。


(ふふふっ、薬の加工人材……ゲットです)


 自分ができる仕事を継続して行えばいい。

 そうゼノに言われてはいたものの、自分が不器用で薬の加工ができない事は気にしていた。

 しかし今回ジュディスの采配により、不足していた鍛冶と製薬担当の人員も集まった。

 ラケルは上機嫌で仕事をしながら思う。


(今度ジュディスの頭を撫でてあげましょう)


 日頃お姉さん基質なジュディスも、更に長生きしているラケルからすれば、まだまだ子供扱いされるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る