第122話 閑話 ユニ君とテノンちゃん3

 道中寝台バスは補給のために魔人の国へと寄ったが、搭乗スタッフはいつもと違う雰囲気を感じていた。

 それでも補給は自社で行うのでいつもと変わらず終える事ができた。


 乗客はそんなピリピリした空気を感じ取り、バスから降りる事なくスタッフから情報を集めていた。

 魔物という危険が常につきまとう世界なので、余程平和ボケした富裕層以外は、生きるためにアンテナを張り巡らせて安全かどうかを判断している。


 のだが……

 最後尾の部屋のカップルだけは色々な事が初めてなので、有頂天になり食事以外は部屋から出て来なかったとか。


 △△▽▽◁▷◁▷


 戦後処理に失敗してベベルペルべが混乱しているなんて、引きこもりし過ぎてスルーした盛りップル。

 バスの運行に数日の遅延もなくドワーフの国ホイデルトに到着した。


「んん〜到着、でも発着駅だからミゾルテ(人間の国)と変わらないね」

「そうだね、でも確実に目標に近付いてる」


 バスから降りて伸びをしたテノンに、挫折を知り女を知り強き目標を得て、男の表情になったユニが答える。

 その服装はテノンがワイシャツにパンツでユニがゴスロリと、相変わらず性別あべこべではあるが。


 2人はトランクを受け取ると、バスにあったホイデルトの発着駅付近のガイドマップを手に歩きだした。

 予定通り安アパートをいくつか巡り当面の宿として契約、即日入居してアパート巡りに疲れ寝具もなしに眠りについた。


 翌日2人はその容姿を十分に活用し生活費を稼ぐべく、女性誌を多数発行している会社に突撃。

 モデルのオーディションはないかと受付けで聞いてみると。


「係の者をお呼びします、しばらくお待ちください」

「まぁ〜、この娘達が? ん〜もう合格よ。丁度1人寿引退して辞めちゃったから、モデルに枠が空いてるから、2人共方向性が違って良い感じに美少女だし、特別に雇っちゃうわ」


 青髭で細身のオネエに一目で採用され、新生活は幸先よく始まった。

 かに見えた……


 △△▽▽◁▷◁▷


 ユニとテノンの掲載された雑誌は2度の再販をしてもなお売切れ、3度目よりも先に翌月号が3倍の部数販売されそちらも即日完売した。

 以降瞬く間に仕事で予定が埋まり、ユニは師匠となる人物を探す時間が取れなくなっていた。

 安全のためにセキュリティの厳重なマンションに引越し、衣食も充実できた。

 贅沢な悩みだとは知りつつも、ユニは今の生活について考え込むようになった。


「ユニ君、弟子入りしたら技術を教わる代わりに、無給で泊り込みの下働きになるんでしょ? 衣食住の保証はあるけど必要な物ができても何も買えなくなるって、練習用の材料費のためにも我慢時だって、自分で結論だしたんでしょ? 社長さん(例の青髭オネエ)に頼んで名人名工を探してもらってるんだし、今は耐えるの。我慢できないせっかちな男は、早い男は嫌われるんだから、今夜からは耐久力とか持久性を上げるトレーニングをしよっか?」

「えっ?」


 良い事を言っているように、自分の甘えを悟されるように、途中までは真面目な話しをしていたのに、最近は説得しても悩む時間が増えたからと強引に舵を切り替え、寝室にユニを連れ込んでいったテノン。

 翌朝から悩みがなくなった代わりに女の色気の増したユニは、考える時間もなくなるほど忙しくなるのだった。


「社長〜、早く師匠候補のピックアップを〜」


 控え室ではテノンの膝枕で、寝言を言っているユニの姿が見られるようになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る