第118話 鍛冶場予定地で叫ぶ樽


「姐さん、本当に申し訳ない。まさかあそこまで面倒な性格をしているとは思わんくて、その……」

「ウチが今から農園に行きたいなんて言わなかったら、夫とあの人が言い争う事もなかったんです、だから夫だけに責任を追わせないでください」


「駐車場から出ているゼノさんの精神波に、怒りの感情は感じられないから1度は見逃すけど、何度も繰り返すようなら追い出されちゃうからしちゃダメよー?」

『はっ、はい!』


(ゼノさーん、聞こえますかー?)

(こちらゼノ、ジュディス聞こえているよ)

(空き家にドワーフ夫婦を)

(許可、こっちだ)


 念話の魔法でゼノに、ドワーフ夫婦を空き家に住まわせて良いかと問いかけたら、全てを伝え終える前に許可が下りた。

 これを否定的な許可と捉えるべきかジュディスは少し迷った。


「2人共、ゼノさんから空き家に住まわせても良いと許可が出ましたから、今から案内しますねー」

『はい!』


 パチン!


 ジュディスが指を鳴らすと魔法が発動して3人は浮かび上がり、斜め上空に飛行して小城を迂回していく。


「ぬおおおおおおお!!」

「ああああああああ!!」


 それも亜音速で。


(ドワーフ特有の頑固な性格を直す機会でもあるのに、早々にやらかした2人へのお仕置きは必要だからねー)


 精神的お姉ちゃんは弟分を困らせたドワーフ夫婦に対して、ちょっとしたお仕置きを敢行したのだった。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ゼノはサンカイオーの駐車を終えるとジュディスの念話を受け取った。


(近所で鍛冶をされたら煩くて眠れなくなる)


 ドワーフだから鍛冶だろう、そんな理由で空き家を丸ごと移動させてきて、亜空間の入口から見て駐車場より奥に設置した。

 更に亜空間素材で作り出した家と同サイズの箱も、家に隣接させるように作り出した。


『…………ぁぁぁぁぁぁああああああ!!』


 箱の完成と同時に、聞こえてきた悲鳴の大きさも最大になり、3人の着地と共に収まった。


「お待たせしましたー」

「ご苦労さん、いつも助かる」

「どういたしましてー」


「それでドーガン、ウーリロ、早速だがこの中を見てくれ」

『ちょっと休まひぃぃぃ!』


 躾は最初が肝心とばかりに威圧感満載でジュディスに微笑まれ、ドーガンとウーリロは戦慄に震える体に鞭打ってゼノの元へと走り出した。


 ゼノに案内されたのはドーガンとウーリロが住む事になる空き家、そこに隣接させて作った亜空間素材の箱の中だった。

 そこは昼だと言うのに入口以外からは一切の光がささず、入口からの光ですら途中で掻き消されているかのように不自然に途切れている。


「若いの、こりゃー一体……」


 困惑したヒゲモジャおじさんに見上げられて耐えられなくなったゼノは、無言で天井を指さすと屋根を取り払った。


「うおっ!」

「ひゃっ!」


「この箱はこの空間と同じで俺が作り出した物で、ここで鍛冶をするなら光も煙も吸収するように設定可能だ。ついでに音も吸収するが、基本的に昼に鍛冶ができる環境に作ったつもりだ、どうだ?」


 設備の評価を問うてドーガンを見たゼノは、危険予測の警告に従って入口から外へ走り出した。

 ジュディスもゼノに続けて走り出し、入口に背を向けて壁沿いにしゃがみ込むと、これまた同じように耳を塞いだ。

 その瞬間、箱の中を見てプルプル震えていたドーガンから、砲撃もかくやの絶叫が迸った。


「なんじゃこりゃー! こいつはたまらんぞ!!」

「アンタ、うるさいよ!!」


 ドガッ!


 鍛冶師垂涎の空間に興奮して絶叫した夫ドーガンへ、逃げ遅れ鼓膜をキンキンさせられた妻ウーリロから、容赦ないドロップキックが繰り出された。


「ウェッヘッヘッ、ワシはここに、ここに住むんじゃ、ウェッヘッヘッ」


まだ設備も建物もないが理想的な鍛冶場を与えられたドーガンは、妻からの制裁すら気にならないほど興奮して気持ち悪い笑いを続けていた。

この日ウーリロは初めて、夫であるドーガンの気持ち悪い面を発見し、大きな大きなため息をついていた。


「っ……はぁ〜……」

「ウェッヘッヘッ」

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