第117話 やっちまったのは誰か

「ワシは見ての通りのドワーフで名はドーガンじゃ、偶然再会したジュディス姐さんにれんこ……ゲフンゲフン、なんの説明もなしに誘われて来た」


「ウチはドーガンの妻でウーリロ言います、どうぞよろしゅう」


「姐さんって、まあいいか……細かい話しは中に案内してからジュディスに丸投げだな、2人共車に乗ってくれ、フェリシアも乗車するか?」


「えっ? あのえっとその……はい」


 未だに優しくされる事に慣れないせいか、亜空間に歩いて入るつもりだったのに、呼ばれて戸惑うフェリシア。

 それでも初めての仲間達に、遠慮し過ぎるのは良くないと再教育されたので、昔と今の葛藤の末に肯定の返事が出た。

 ゼノは4人が乗車したのを確認すると、サンカイオーを発車させ亜空間へと入っていった。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 入口近くに駐車すると変則的な入り方をした場合に、サンカイオーにぶつかる可能性が残り危険なので亜空間の奥へと駐車しに走る。


「進行方向左側に見えるのが元世界樹の分身体が世話をしている農園で、右側が居住区域になっている」


「今サラっと世界樹の分身体って言わへんかった?」

「おい若いの、どういう事じゃ?」


「初対面の俺が話すより、知り合いらしいジュディスから聞いてくれ。俺にはこの後まだ仕事が残ってるんだ」


「むぅ、そうか、ならば仕方なかろう」

「せやったらその話しはアンタ聞いといてくれへん? ウチはあの農園見に行きたいわ」

「若いの、うちのカミさんがこう言っておるが、構わぬか?」


「ダメだ、まずは城でこの場所のルールを聞いて覚えてからだ。ここは俺の能力で作られた世界だからな、独裁なんて下らない事をしないためにも、仲間の作ったルールに俺は従って行動する必要がある。だがどうしても俺が我慢ならない相手なら、ルールなんて無視して外に放り出す。俺が苦しんでまで、俺を苦しませる相手を住まわせる理由はないからな」


「若いの、それはもう独裁と変わらぬのではないか?」


「無人の世界に独りきりを独裁と言うなら、それはそうなんだろうな。それと勘違いするなよ、今の2人はまだ客なんだよ。ドワーフは店に無礼な客が来ても我慢し続けるのか? ぶん投げて追い出すのか? どっちなんだ?」


(くっ、身に覚えがあり過ぎて反論できんわい……)


 伊達に9年弱もの間、パワハラ上等モラハラ上等人間の跋扈する弱小企業に務めていたわけじゃない。

 面倒な相手との会話の躱し方も会得しているし、絶対に揺るがない生活基盤があるからいくらでも強気に出られる。


 ゼノとしては仲間の知り合いだから招いただけで、見知らぬ他人が自宅に入ってきたのと変わらない気分なのだ。

 そしてその他人が好き勝手に言い出しそうだったから、先手を打って牽制したに過ぎない。


 些細な日常でも器の小さを露呈させているゼノだが、本人としては最早人生において大きな我慢をするつもりはなくなっている。

 誰かに奪われ続けてきた自由と幸せについてはもう諦めた、だからせめて誰からもストレスを与えられない人生を望んでいるのだった。


 重苦しい沈黙が車内を包み込む僅かなドライブのあと、居住する小城の前にサンカイオーを停車させた。


「着いたぞ、降りな。俺は車を駐車場に置いてくる」


 助手席のフェリシアも後部座席のドワーフ2人も、何も言わずに下車して小城に向かった。

 ゼノは空を経由して駐車場に向かったので、その後の顛末は知らずに終わった。


 ゼノが消えた後、スルリと先にサンカイオーを降りていたジュディスが、小城の前で怒りの笑顔を浮かべた仁王立ちしていた。


「フェリシアちゃんは解散していいですよー、中で休むも自由にしててくださいー」

「あっはい、了解しました」


 ジュディスの圧力が自分に向けられてないにも関わらず、冷や汗が出てきて逃げるように小城に駆け込むフェリシア。

 そしてそれを縋るように見るドーガンとウーリロ。


『申し訳ありませんでしたー!!』


 フェリシアの背中からは、ドワーフ2人の謝罪の叫びが聞こえていた。

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