第116話 樽(たる)
ラケルと外出禁止になったゼノだけが生活魔法の亜空間に残り、他のメンバーがデブ着ぐるみを纏って外へ情報を集めに行ってから10余日。
ゼノはスローライフを満喫していた。
「太陽と共に寝起きして晴耕雨読のまったり人生、本に飽きたら小物を作ったり。はぁ、俗世とかもう本当に嫌」
「そこは私が居るから楽ができているのです。本来の農家は貴方の考えているほど楽な職業ではありませんよ」
「それはわかっているんだけどな、生活魔法やラケルが居てくれる事も含めて俺だから。俺の農家はこれ以外はできないから、このスタイルのままで良いんだよ」
「一理ありますね」
わざと没個性にせずとも技術や能力、それに人脈等を最大限に使って仕事をする方が良い。
いつもはゼノを嗜めているラケルだが、思わぬ正論に首肯する。
「そろそろ約束の昼頃だし、みんなを迎えに行ってくるか」
「いってらっしゃい、女には気をつけるのですよ」
「この国の女は好みじゃないからとか関係なく、女も男も信じられないから話すらしないよ」
亜空間の入口まで飛ぶと、防塵用の顔全体を覆うマスクと陽射しよけのマントを被って外へ出る。
入口の外にはサンカイオーがアイドリング停車しているが、入口が開いたのに入ってこない。
面倒事でも起こったのかと中から探っていると、見知らぬ人物が2人ほどサンカイオーに乗っている。
どういう事かと考えていたらジュディスだけが亜空間へと入ってきた。
「ゼノさーん、私の知り合いと出会いまして、良ければ中に招待していただければ有り難いんですけどー」
(……まあジュディスは俺より頭が回るからな、生活魔法が知られるよりも得られる利益が大きいと判断したんだろうな)
人なんて仲間なんてと言いつつも、なんだかんだで仲間を信じているツンデレオッサンなゼノである。
ピンク以外の誰得でもない。
「わかった、出よう」
「ありがとうございますー」
入口に近かったジュディスに続いて亜空間から外に出るゼノ。
ジュディスがゼノを迎えに行ったからだろうか、既にサンカイオーからは全員下車しており、髪の色と同じようにゼノに対する思考がピンクの少女ミラが駆け寄ってくる。
「ゼノさん、ただ今帰りました。物資や情報など色々集めてきましたけど、ここは暑いので先に中に入らせてもらいますね」
「ああ、おかえり、それとお疲れ様」
好いた男に顔を見せるのにフードを外していたミラ、通り過ぎる彼女の頭を何気なく撫でたゼノ。
「はうっ……」
素速く回り込んだジュディスに抱きとめられたミラは、喜びに腰砕けになっていた。
自分が非モテだと絶対の確信を持ったゼノには、ミラが歩けなくなった理由を疲労と思い込み、ジュディスに連れて行ってやってくれと頼んだ。
「オメーは相変わらずだな」
「何について相変わらずなのかは知らないが、人間そう簡単に変わりはしない」
続いて来たのはダイゴローと指を絡めたサリアだ。
「後で会議には出ますが、情報は全てミラさんに報告してありますので、漏れがなければ聞き役に回るかと思います」
「了解した。ああそれとなダイゴロー、君とサリアの家は今日から生活魔法の能力の範囲から切り離したから、毎日掃除を頑張ってくれ」
「あー……はい」
「なんだよオメー、今まで通りで良いじゃねえか、ケチくせえな」
「いやあのねサリアさん、これまでのままだと家の中まで全部ゼノさんに知られてしまうんだ」
「それのどこがイケねえんだ?」
「耳貸して……ゴニョラゴニョールゴニョリータ」
耳打ちされたサリアは顔を真っ赤に染め、なっ! と言って亜空間に走り去っていった。
ダイゴローもゼノに一礼すると、サリアさーん待ってーと走り去った。
忠臣フェリシアはゼノが出てきた瞬間から斜め後方に立ち待機していて、今は帰還の挨拶をする気はないらしい。
それかゼノから声をかけられるのを持っているのだろう。
ダイゴローと入れ違いに出てきたジュディスが、最後に残された2人を紹介するからと手招きした。
サンカイオーの日陰から現れたのは、小柄ながらもガッシリした体格の男女。
そうエルフと対をなす有名種族のドワーフだ。
後にゼノは語る、噂に違わずその体は樽のようだった、と。
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