第112話 生えている植物の扱い以外は不器用ですから

「また何か始まりましたね、まぁいつもの事なので放っておいて、みなは早く朝食を済ませてしまいなさい」


 ラケルの言葉に女性陣とダイゴローは素直に頷き、ゼノをチラチラと見ながらも朝食を続けた。

 一方でゼノは無意識的に朝食を摂りながらも、名前も忘れた砂漠の国に定住するか否かを真剣に悩んでいた。

 おっさんにもなると記憶力が低下して、瞬間記憶も長期記憶も覚えにくくなってきているのだ。

 特に幼少期の脳への刺激がストレスばかりなので、彼にはその兆候が激しかった。

 本人にその自覚がないのが救いと言えば救いなのだろうか……


(まず肯定要素だが、この国なら俺はモテモテになれるかもしれないって事だ、これはかなり大きい。一方で否定要素は更に大きい。まずモテるという事は多様な女性が迫ってくるという事、そこには俺の好みは関係なく、この国での美女が自信満々に抱き着いて来るかもしれない。確証はないがこの国の美女は俺達の美的感覚からすると、本人達には悪いが不細工になる可能性が高い。食料の少ない地域故に出産の成功率が高いふくよかな女性が好まれる、または顔が平面だとか目が寄っていたり離れていたりなのかもしれない)


 無意識のうちに食事を終わらせて食器を流しに置いたゼノは、リビングの定位置に座りまた思案にふけった。


(何よりの問題は平気で……あのお嬢さんに暴力を振るう国民性だ)


 一度聞いただけの相手の名前はなかなか覚えられないので、お嬢さんと呼称して考えを続けるゼノ。


(確かにこの国なら、醜女と呼ばれる女性を集めたハーレムを築けるのかもしれない。だが残虐や残酷な行為を嬉々として行う彼等彼女等には、人間的魅力を全く感じない。そう考えると人生初の体験だが、ちょっとモテたい程度でこの国に残るのはないな)


 ゼノの意識が思考から現実へと戻ってくると、リビングには全員が居て、それぞれ好きにくつろいでいた。

 食後直ぐに戦闘可能な強胃腸のサリアやダイゴローまで居るので、何事かと思ったが丁度よかった。


「みんな聞いてくれ、俺にとってこの国……」

「ゼノさん、ネフラスカです」


「ミラ、ありがとう。ネフラスカ住民の平気で誰かを集団で虐待する気質は、到底受け入れられない。だからネフラスカでの国民への接触は最低限とし、他国民または他人種への情報収集を旨としよう。それにこの国では、美男美女は不細工扱いされる可能性が非常に高い。つまり俺以外の全員がネフラスカ国民と会話しても見下される可能性があるし、逆に俺は顔を隠さなければ現地民の女性が囲おうとしてくるだろう。故にこの砂漠では迅速にやるべき事を終え、早々に撤退しようと思うが。みんなは、どうだろうか?」


「(アーン、ゼノさんに美女扱いされちゃったー!) 私は賛成します」


 ミラに続きサリア達も口々に賛成をしていくなか、1人価値観が違い話しの内容の一部が、自分が美女扱いされた事が理解しがたいフェリシア。


「えーと、あの……それで良いと思います」


 それでも過去の扱いから、目立つ事は極力避けようという本能が働き賛成と言う。


「全員の賛成が得られたので、ここからは今後の展開について話し合おう」


 話し合いが長くなりそうだと席を立ち、気を効かせたラケルが紅茶を入れてくれたが、味覚がない上に不器用な彼女の入れた紅茶は、お世辞にも美味いとは言えないものだった。

 それでも誰一人文句を言わず、入れてくれた事に感謝していただくのだった。

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