第113話 これが私の奥の手です!

 話し合いをしていくなかで、フェリシアは何ができて何が得意なのかを確認しようという流れになった。

 誰から何を確認していくか決めるのだが、当然のように強気(デレ)なサリアが名乗り出た。


「まずはアタシが戦闘能力を調べてやる、下に行くぞ」


 サリアの先導で地下の戦闘空間へ向かう一同。


「凄い、地面の下にこんなに広い場所を作っているなんて……」


 初見のフェリシアは称賛の割合が多い驚きを顕にしながらも、サリアのすぐ後ろを歩いていく。

 生活魔法の亜空間地上部分と同じ広さの地下は階段以外には何もないので、ジュディスですら全力で暴れられる空間となっている。


 ちなみにジュディス参入後、サリアの興味は自身より強者である彼女に移ったので、ゼノとミラは戦闘訓練がなくなってホッと安堵している。

 そしてダイゴロー参入後はサリア・ダイゴローペア……カップル対ジュディスでの戦闘訓練が日々行われている。


「オメーの戦闘能力を見るためだから、好きにしていいぞ」


 サリアは鞘が剣から外れないように、連接剣の柄と鞘を革紐で縛りつけながら言った。


「1人で戦士として戦い続けるには様々な工夫が必要でした。持てる荷物は重さが限られていて、その大半は水でした。そこに保存食、日差しを遮るマント、夜の防寒用のマントと欲しがれば際限がありませんでした。防具も金属製の物は身に着ければ昼の熱で焦がされ、夜の冷気で肌に張り付くだけです。更に足下は砂地で万全な回避もできません。だから私が戦士として至った答えがこれです。纏装!!」


 フェリシアは自身の魔力と気を一体化させ、更にボディスーツのような鎧として物質化させたのだった。

 復元した長髪も白銀のヘルメットの中に収まり、首から下は光を吸い込む黒1色。

 足はヒールのないブーツのような形状だが、ボディスーツとの乖離部分なく繋がっていて、腕も指先まで余分な装甲がない、しなやかな動きを可能にしそうな形状だった。


「あらー、フェリシアちゃんも錬装が使えるんですねー」

「えっ?」


 聞き間違いかと思いジュディスの方に向くと、自分とは色違いのボディスーツとヘルメットを纏ったジュディスが居た。

 こちらは森林での戦闘を前提にしているのか、全身が深い緑色をしている。


「ひと目見た時からただ者ではない強さを感じておりましたが、まさか私の奥の手の更に上を……」

「これ、結構難しいな」

「そうですね」


 そう言いながらもフェリシアと対峙しているサリアは両手前腕を、サリアの隣に立っているダイゴローは、左腕全体が錬装と呼ばれた状態になっていた。


 グゥリュン!


 縋るような思いでラケル、ジュディスと一緒に居るゼノとミラへと振り向く。

 フェリシアの視線の意味に気付いた2人は、声を出さずに両手を前に出し顔と合わせて左右に振った。

 ムリムリムリムリムリムリムリムリ!


「ホッ……」

「サリアちゃんもダイゴローも、ある種の天才だからー。大抵の事はひと目見ただけて身に着けちゃうわよー」


 ズーン……


 戦う前からフェリシアの心は戦闘不能に陥った。


「私の奥の手が、こんなにもアッサリ……」

「あー、なんかその、わりぃ」

「申し訳ありません」

「謝らないでください、余計悲しくなりますから……」


 戦闘訓練、勝者サリア。

 決め手、意図せぬ盤外戦術による精神攻撃。

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