第111話 現実を知るのは辛く悲しい

 ダイニングのテーブルに突っ伏し、グロッキー状態から回復しかけているゼノの前に、朝食を乗せた皿が置かれた。


 メニューはスクランブルエッグ、ベーコン、パン、サラダ、フルーツヨーグルト等々。

 ラケルは食事ができないので皿が用意されていないが、テーブルに着いているのは会話を楽しむためである。

 元々10人掛けの円卓なので、新人女性の1人が増えたところで不自由はない。


「なぜだろう 追い出せないな 仲間達 ゼノ」

「ゼノ、そんな事よりも自己紹介すらさせてもらっていないそこの娘に、話しを振ってやればどうです? 今も食事に手をつけずに待てをしてますよ。貴方はリーダーなのですからもっと調和に気を使いなさい。それと、拾って来たペットの面倒はきちんと最後まで見るように」


「ラケルさん? 様? 人間をペット扱いするのはどうかと思いますが……」

「はぅ〜ん こんな素敵な方のペットにしていただけるなんて」


 ラケルの言葉を嗜めるダイゴローだったが、むしろペット扱いされた当の褐色女性は喜んでいる。


『え゛っ?』


 そんな反応に当人とラケル以外の全員が同じ反応を示し、似たような感想を持った。


(マジか)

(本気なんですかっ!?)

(マジかっ!)

(本気っぽいですねー)

(本気なんですかっ!?)


「娘、ペットになれるかはゼノ次第ですから、まずは自己紹介を兼ねて何かアピールしなさい」

「あっはい、私はフェリシアって言います。砂漠の国々のひとつ、ネフラスカを拠点に魔物を狩る戦士として活動していました」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 私本当は踊り子になりたかったんですけど、自分で言うのもなんですけど、この通り非常に不細工でして。

 なので仕方なくローブ等で姿を隠して、魔物を狩って売却する事で生活していました。

 ある程度は戦士としても才能があったようで、ソロでもB級中位になれました。

 だけどネフラスカでは戦士は男か不細工女が行うものという不文律があり、実力ある戦士は美女に見初められ引退。

 なので街の外には弱い戦士と私しか残りませんでした。


 運悪くそんな時に、小規模な魔物の増殖が発生しました。

 防壁と残った戦士達で、なんとか魔物の街への侵攻は防げましたけど、将来を期待されていた若く弱いイケメン戦士達は全員死亡。

 私も片手と片足を失う大怪我を負いました。

 前々から戦士が足りずにいずれ増殖が起きると訴えていたのに、国は何もせずにこれまで大丈夫だったのだからこれからも大丈夫の一点張り。

 そして増殖が終われば生き残った私が不細工だからと国に恨みを持ち、復讐のために今回の増殖を起こしたのだと嘘の公表をしました。


 それから1年、私に対する殺害は禁止されていましたが、暴力は推奨されました。

 そして何度死にかけても魔法で回復され、目を抉り取られ、鼻や唇、耳を削ぎ落とされ、全身は焼かれ残った手足も半ばで潰され腐り落ちました。

 住民からも臭い醜いと苦情が多かったようで、あの日私は最後のリンチによる死刑の最中でした。


 やっと死ねると安堵していながらも、どこかでまだ死にたくない生きていたいと思っていました。

 そんな時に颯爽と現れ私を救出してくださった好みのイケメン。

 私のような不細工にこれ以上の温情はないでしょうが、それでもペットとしてお側に置いていただけるなら、目の保養になりますし命の恩も返せます。

 ですのでどうか私を貴方様のペットにしていただいて、末永く使っていただけたら幸いです。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ねえサリア。ゼノさんってさ、こういうピンチに出会う運命でもあるのかな? サリア以外の全員がゼノさんに助けられてるんだけど」


「ああ、アタシもそれは思った。多分自分があんな生い立ちしてっから、どっかで無意識に救いたいって思ってんじゃねえか? だから運命とかそういうのか引き寄せてるとか?」

「あー、それはありそうね」


 隣でミラとサリアが小声で相談するも、ゼノの意識には届いてなかった。


(これだけの美女が不細工で俺がイケメン、つまり美醜の感覚が砂漠では逆になっているか、他とは隔絶しているか。つまり俺の顔は砂漠の外では……くっ!)


 ゼノは現実を知るとテーブルに両手を叩きつけ叫んだ。

 ダンッ!


「チクショーメー!!」


 その場に居た全員が、何事かと注目した。

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