第107話 人の業3
「みんなには突然あんな行動に出た謝罪と共に、なぜ俺が我を忘れ怒りに打ち震え、後先考えずに飛び出したのかを話したい」
小城のリビングで思い思いにソファーに座った面々は、ゼノの言葉に無言で頷き各々聞く姿勢へと移行した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
俺の両親はいわゆるネグれストでな、両親はほとんど不在でたまにやって来ては俺を虐待していたよ。
自宅か借家なのかは知らないが、住んでいた一軒家には水道以外のライフラインは止まっていて、食料も保存食を置いていくだけだったよ。
ミラは覚えているかな? 生活魔法の亜空間に入って最初の入浴の時だ。
君の後に俺は入浴しなくて良くなったからと入浴を、服を脱ぐ事をしなかったという事に。
あの頃はまだ体中が変色と傷痕だらけでな、恐らく女性が裸を見られるのと同等以上に、自分の体を見られたくなかった。嫌悪や哀れみの目で見られたくなかったんだよ。
それから色々あって万能薬で普通の皮膚になるまでは、薄着になる事に恐怖すら覚えていたよ。
まあ、まだ肌をさらす恐怖が抜けきったわけじゃないけどな……
そんな親がまともに俺を学校に通わせるわけもなく、俺は一度も学校というものに通った事がない。
10代も後半になった頃か、両親に色々あったらしくてな、俺が警察に発見されて余計に色々あったらしい。
学もないガキのまま監禁されて過ごした俺には、少しも理解できなかったけどな。
そんな俺だが国の保護を受けて数年、勉学とコミュニケーション訓練を経て社会に放り出された。
何もかもが不十分な成人男性がまともな職につけるわけもなく、ならせめて真面目に働いて認めてもらおうとしたらリストラ……クビにされたよ。
それから再就職もできずにホームレスになり、風に流されてきた新聞に万屋の記事が書いてあってな、万屋に登録したんだよ。
最初は普通の万屋のつもりだったんだがな、受付けの悪意で戦闘万屋にされちまってな……
それからはまあ、周囲に流されてここに居る。
今ならわかるんだけど俺の生活魔法は、亜空間を作る能力は、閉じて貧しい世界から逃げ出したい、辛くない生き方をしたい、幸せを作り出したいっていう渇望の発露なんだってな。
そんな俺だから、あの時の光景が自分の辛い記憶を呼び起こして、ほぼ考えなしに飛びたしたんだ、すまなかった。
謝罪した直後にする話しではないが、この際だからついでに言っておこうか。
俺はみんなに、この亜空間に居る全員に、いずれはここから出ていってもらいたいと思っている。
俺にとって人間は本能に忠実で悪意を持つ愚者でしかないからな。
だから誰ひとりとして近くに居て欲しくない。
追い出すつもりはないし、出ていけとも言わない。
だがいずれ、俺は死ぬ。
その時にここが無事であるとは限らない。
二度と入口が開かないくらいならまだマシだ。ここには生活できる環境と資源があるからな。
だが最悪なのは、ここが崩壊や消滅してその場で死んでしまう可能性だ。
戦闘万屋を寿退職する者も出てくるだろう。
まだ見ぬ誰かと結婚したり国に帰り復職する者もいるだろう。
フレデリックに頼めば、今日回収した元重症者も保護してもらえるだろうしな。
そのうちラケルも世界樹に返すつもりでいる。
それでもみんなを入れて好きにさせているのは、仲間だと思っているからだ。
俺はクズになりたくないから、突然入れなくしなりとか逃げ出すような悪行はしたくない。
だけどこの状況は、苦痛という程ではないが俺が望んだ未来でもないんだ。
だから頼む、俺を静かに暮らさせてくれ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
それだけ言うとゼノは誰かが何かを言い出す前に、物質操作で窓を開けると逃げるように空へ飛び出していった。
ゼノの飛び去った後リビングを、重苦しい雰囲気が包み込む。
しばらくの間、誰も何も言う事ができずに、それぞれの思いを抱えソファーに座っていた。
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