第108話 人の業 人の愛

「私がゼノさんに人間全員をひと纏めにして嫌わないで、愛する価値のある人間だっているって事を教えてみせます!!」


 ゼノが退室してからしばらくの沈黙の後、仮面を脱ぎテーブルに置いたミラが、立ち上がりながら叫び宣言してみせた。


「人の心は簡単なものではなく、信頼し仲間だと言った私達ですら近くに居るのが少し苦痛。そんな理屈では語れない、相反する思いがあるのも受け入れましょう。だから私はゼノさんに対して最適の距離感を見つけ出し、一生をかけてもあの人の人間不信を緩和させてみせると誓います!」


「ミラ、お前……」

「ミラちゃん偉いわ、がんばってね〜。私も協力するし相談に乗るわ〜」

「ミラさん」


 暗い雰囲気に飲まれていたサリアとダイゴローは、ミラの力強い宣言に何か感じいるものがあったようだ。

 ジュディスだけは変わらないように見えるが若干眉に動きを見せ、可愛い妹分の成長を喜んでいるようだった。


「やれやれ。人間のオスなどピンクに染めれば容易に立ち直ると聞き及んでいますが? ゼノをピンクにするために染料の開発をしてみましょうか」


(ラケル様も的外れながらゼノさんを心配しているようですね〜)


 部屋に居ないラケルのつぶやきを、耳の良いジュディスだけが拾っていた。


(なんだかんだで問題を乗り越えて、力も結束も強くなっていくのがチームなんですよ〜、ゼノさん)


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 一方その頃のゼノは、暗い感情と雰囲気に押されながされ発言した静かなヒステリー、そんな表現のできる先の自分の言葉を猛烈に後悔していた。

 確かにミラにもサリアにも、迷惑をかけられてきたと思う部分は多い。

 だがそれ以上に、騒がしさで心は助けられ、共に戦う事で強くなる事ができた。


 2人が居なければサンカイオーは手に入らなかったし、シュトロハーゲンに逃げてくる事もなく、下手をすると世界樹ごと世界は滅んでいただろう。

 そう思うと不思議な人の縁や運命に自分は救われている。

 ふと、そんな風に考えてしまう。


 だから助かってはいるのだが、過去が今を受け入れさせない。

 感謝と否定。

 ゼノはふたつの想いの狭間で揺れ動き、明け方まで眠れぬ夜を過ごした。

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