第106話 人の業2

 生活魔法の亜空間、小城の客室でベッドに寝かされていた重症者は、ジュディスの振りかけた万能薬で完全な体に回復した。


「よかった……」


 ゼノはそう呟くと客室から出ていこうとドアへと足を向けた。

 が、肩を掴むジュディスに足止めされてしまう。


「ゼノさーん。ちょっとオハナシしましょうねー?」

「あっ、はい」


 重症者は男性ではなく20歳前後の女性だったので、復活した全裸を思いっきり見てしまったのだ。

 その過失を誤魔化すためにキレイな言葉で取り繕って客室から逃走しようとしたが、最強のエルドワーフには通用しなかった。


 それからみっちり3時間。

 ゼノは正座させられ続け、痺れた足をつつかれ続けた。

 もちろん年上のお姉さんからの、柔らかだが有無を言わさぬオハナシ付きで。


「俺だって、好きで見たわけじゃ……」

「言い訳なんて言っているうちは、一言毎に1時間追加ですねー」

「おうふ……」


 ゼノへのオハナシは5時間にはならなかった。

 かなりギリギリではあったが……



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ゼノが足の痺れから回復する頃には夜になっており、亜空間の入口を開け砂漠の町に出るとすっかり暗くなっていた。

 救出した女性をラケルに預け、ゼノとジュディスの2人は仲間達とサンカイオーを探した。


 サンカイオーは直ぐにジュディスが発見し、ゼノは背中と膝裏に腕を通して抱き上げられ、上空に待機したままだったサンカイオーまで運ばれた。


「ゼノさんは私が居なかったらどうするつもりだったんでしょうかねー? 可愛い弟に頼られている様で悪い気はしませんけどねー」

「エルフの実年齢と外見の差に、おっさんになったと認めた全俺が泣いた。おっさんなのに可愛いとか言われ、かなりキツイ」


 サンカイオーの前に亜空間の入口を開くとジュディスに抱えられ先に入り、サンカイオーとそれに乗っていた全員が通過してから入口を閉じた。


「よう、ゼノ。遅かった上にお姫様だっこでご登じょ」

「自分がして欲しいなら、ダイゴローに頼むんだな」

「はぁ!? ちょっ、おまっ! なに、バカな事言ってんだよ。アタシは別に……」


 最近恋する乙女になりつつあるサリアからのからかいを華麗にかわし、ゼノは一行の先頭を歩きつつサンカイオーから飛び降りてからの状況の説明をした。

 もちろん都合の悪い部分は完全に伏せて語らなかった。


「それじゃあその女性は今、気を失ったままラケルさんが見てるんですね」


「ああ……手足は落とされ、全身は大火傷。詳しく診察しているほど冷静じゃなかったら確証はないが、打撲や擦過傷、多数の骨折なんかもあったはずだ」


「そうですね。あの人だかりからは彼女を嘲り暴力を奮っていた打撃音が聞こえていましたから」


 ジュディスの補足説明に一行は沈黙し、小城のリビングまで誰も何も話さなかった。

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