第101話 まだまだ不器用な生産人形のラケルも植物の扱いだけは誰にも負けない

 夜明け前。

 ゼノは鍬を担いで、ラケルの管理する畑へと来ていた。

 流石元世界樹なだけあって、更には生活魔法の一部も使えるようになり、今ではかなりの広範囲を1人で管理している。

 穀物から始まり、葉菜類、果菜類、根菜類だけでなく。

 実のなる木や芋類、果ては花畑と蜂の巣まで設置されている。


「万能薬を飲み続けて腰の若返った俺に、畑仕事なんて朝飯前よ!」


 ラケルの特性なのか亜空間で育成される食料は、通常の数倍から数十倍の早さで育てる事が出来る。

 ラケルのみだが。


 気が付けば畑が増やされているので、亜空間の空きスペースはほとんど畑へと変貌している。

 更には成熟して食べ頃を維持したまま成った状態で置いておける。

 今では食料でさえ自給自足が可能になった生活魔法だが、当然刈り取れば空きになる畑も出てくる。


「そのセリフ、最近毎日言っていますね。そんなに腰とは大事なのですか?」

「人体の運動における根幹部分が腰だからな。腰、股関節、膝、足首の主要関節は大切にしないと将来動けなくなるしな」


 ラケルの質問に答えつつも、鍬を振って畑にうね(台形で野菜を植えるアレ)を形作っていく。

 通常鍬は後ろに下がりながら振り畑を耕すが、畝作りは逆で前進して土を盛り上げて固める。

 進む振り下ろす土を盛る、鍬の柄と逆側の面部分で押し固めて出来上がり。

 これを畑の端から端まで、全面が畝と間の通路になるまで繰り返す。


 物質操作を使えば畑の土を全て浮かべ撹拌し、理想の形に畝を作る事も可能だが、管理人のラケルだけでなくゼノもそうはしない。

 ラケルは自分の手で何かするのが好きになっているし、ゼノは老後までを見越して、老いる前から強く柔軟な体を作っておこうと企てているのだ。

 ただし、腰が曲がったまま元に戻らなくならないように、細心の注意は必要だが。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 牧草に適した野草もラケルが管理出来るので、シュトロハーゲンに戻ったら牧畜にも手を出してみるか。

 将来のスローライフを考えながら、夕方まで鍬を振っていたのだが……


「あの2人、水も飲まずにまだ闘ってるよ。砂漠での継続戦闘が昼夜昼。常人なら何回脱水症状と熱中症で死んでるんだろうな。全く、仕方ない」


 ゼノは亜空間の入口まで物質操作で飛ぶと、外の2人が間合いを取って、次に動く間を探りあっているタイミングで夕方の砂漠に出た。

 マントを忘れたまま。


「だうわっちっちーっ! おーい、2人共。一旦終了。中に入って風呂に入って、夕飯食べて。続きは旅してない時にしなさい。嫌だって言うんなら、サリアにはチームから抜けて貰うし。ダイゴローには、2度とサリアには合わせません」


「ちっ、しゃーねーな」

「わかりました、素直に従います」


 3人は亜空間に入るとゼノは小城の自室に飛び、サリアとダイゴローは男女別れて風呂に入りに行った。


(やれやれ。無駄にしたのかしてないのか、よく分からない1日だった)


 着替えてから夕飯を作るラケルに指導しながらも、こんな日が続くといいなと、小さな幸せを願うのだった。

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