第98話 ヒロイン?いえ

 砂丘の頂上に停車しているサンカイオーの後部座席に出たゼノ。

 車外に出るとサリアとジュディスは既に、くだんの人影を救出した後で、サリアが背負いジュディスが警戒しながら戻ってくるところだった。


 何が1番速いか一瞬だけ考えて、サンカイオーを運転。

 2人の手前までサンカイオーで飛んで、亜空間の出せる範囲ギリギリに入口を展開。

 亜空間を進入フリーにして、先にサリア達が入れるようにする、

 2人が入ったらサンカイオーを進ませて、自分も亜空間へと入っていった。

 後にゼノは、あの時農業体験から逃げ……サリアと運転を交代しようとして正解だったと思うようになる。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 人身事故を起こさないように、サンカイオーをゆっくり亜空間に入れ終えたゼノ。

 亜空間の入口付近には誰も居なかったので下車。

 奥の駐車スペースまで、物質操作で飛ばして駐車しておく。

 自身も飛行して小城へと向かうと、ラケルから通信が入った。


「ゼノ、対象は一軒家にて休ませています。万能薬で回復しておりますので、直に目を覚ますでしょう」

「了解した、こちらも集合しに向かう」

「お待ちしております」


 生活魔法の新機能でラケルと脳内通信を終えると、唯一生命力が集まっている一軒家の前に着地。


(そう言えばこの飛行も着地も、最初は失敗してばかりだったな)


 そんな事を考えつつ、ドアを開けてリビングへと向かうのであった。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 倒れていた人影は少年だったようで、砂漠の熱と日差しを遮るために外套がいとうを纏っていたので、知らされるまでゼノに性別は判断出来なかった。

 彼が目覚めるまではリビングにラケルが常駐し、夜迄は交代で誰かが部屋に詰めている事になった。


「っ、ざけんなー!!」


 なっていたのだが、どうやら少年が目覚めサリアと揉めている様子だ。

 大声を出したサリアは目覚めた少年の服の背後を掴み、窓から外へと放り投げた。

 ラケルは通信でゼノを呼び、物質操作でミラにメモを飛ばし、ジュディスはその耳で聞きつけて集まってきた。


「アタシはアタシより、弱え奴は男として見ないんだよ。それにガキは好みじゃねえんだ、諦めな」

「いいえ、諦めません! 今この場で、俺は貴女に1度きりの勝負を申し込む。負けたら潔く諦めるが、勝ったら男として見てくれ!」


「自分の女になれって言わねぇのか?」

「力ずくで女性をモノにするのは、相手を無理矢理奴隷にするのと違いないからな。嫌いだよ」

「へぇ……いいぜ、受けてやるよ」


 ゼノ達が駆けつけてみたら、舞台劇みたいなやり取りが始まってた。

 そしてゼノは何かイヤな予感がしたので、サリアと少年を物質操作で亜空間から放り出した。


「訓練じゃないガチバトルなら外でやれ!!」

「ゼノさん英断でしたねー。あの少年かなり強いので、サリアと本気で戦ったら。ここの城くらいなら簡単に瓦礫に変えちゃいますよー」

「………………」


 ゼノは自分の危険予測に、猛烈に感謝した。

 もし危険予測が子供だったなら、1個で日収分のプリンを買い与えても惜しくないくらいには。

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