第97話 新たなヒロイン……?

 サリアと運転を交代するために、後部スライドドアの内側から現れたゼノ。

 巨大な世界樹の枝を吸収してから増えた性能を遺憾なく発揮して、さっきまで亜空間の畑でラケル先生指導の農業体験をしていた。

 だがしかし、早々に腰のピンチを悟って逃げてきたのだ。


「そろそろサリアと交代してくるよ、サリアにも農業の楽しみを知って欲しいからね」

「あっ、はーい」

「わかりましたー」

「腰痛ならミラの魔法で癒やして貰えばいいのでは?」


 ラケルの言葉を聞こえなかったフリして、ゼノは亜空間からサンカイオーへと抜け出した。




「サリア、交代しよう。亜空間の畑で農業体験してくるとい……ん?……ちょっと待って、車止めて!」


 砂漠に入って1日。

 既に景色に飽きていたので農業体験をしていたのだが、ここに来て変化があった。


「なんだ、どうした?」

「右方向で人が倒れてる、サリアは車を近くに停めてくれ。俺は中から万能薬を取ってくる!」

「わかった、行くぜ!!」


 シュトロハーゲンで防塵防砂加工されたサンカイオーでも、砂漠の上下動は運転手が辛い。

 なので森を抜けた時のように空を飛んでいたのだが、今回はそれが功を奏した。

 サリアは発見された人影に向けてサンカイオーを飛ばし。

 ゼノは亜空間へと駆け込み、ミラ達へと指示を飛ばした。


「全員注目! 砂漠で倒れている人影を発見した、今サリアに車を向かわせてる。ジュディスは武器と万能薬を持って外に、ミラは入り口で患者だった場合の診察、ラケルは客室の用意を頼む。俺も戦闘準備をして出る、いいな!」

『了解!』


 築城中にしていたチームミーティングが役に立った。

 緊急時は戦闘力の高いサリアやジュディスが万能薬を所持して外に出て、ミラは治療以外にも診察が出来るので亜空間の内部、入って直ぐの場所で待機。

 非戦闘員のラケルはゼノの指示で長期戦なら調理を、短期決戦なら万能薬の増産を行う等だ。


 各自が予定されたポジションに走りながら、ゼノは自分の靴や衣類に対して浮遊……物質操作を行う。

 これは浴槽の設置の時に目覚めた能力で、そのまま強化されているだけだが、使い勝手は抜群の能力だ。

 非生命体にしか使えないが今回のように服や靴に使用すれば、擬似的な空中浮遊や飛行が行える。

 小城の最上階の自室バルコニーまで飛んだゼノは、物質操作で鍵を開けると武具の保管ロッカーに走る。

 服を戦闘用に着替える時間はないと判断して、防具を操作して手で触れずに装着。

 同時に剣帯とポーチを手で装着しつつ、メイスと手斧を操作して剣帯に固定した。


 ロッカーもドアも閉めずにバルコニーから飛び出すと物質操作を使い、亜空間の入口まで飛翔した。

 人命救助になるのか、魔物討伐になるのか。

 人影が人間なら助け、魔物なら仲間を助けなければ。

 生活魔法の亜空間の主だからと、なし崩しでリーダーになっているが。

 これでも元サラリーマン、与えられた役職は責任を持って果たす覚悟はある。

 最近人間の暖かさを感じ、知り始めたゼノ。


(若い娘さん達にいい相手が見つかるまでは、未来の彼氏や旦那の代わりに俺が守り抜く!)


 一部すれ違いはあるままだが彼なりの覚悟を持ち、リーダーとして最善を尽くすのだった。

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