第86話 亜空間の豪邸4

 亜空間内部の豪邸建築はその規模から、200日の予定期間を設けている。

 木材、石材、鉄材と様々な材料が、これでもかとふんだんに使われ。

 大工・運命の職員及び職人達は、完成までは無期限で豪邸建築関連の仕事のみとなっている。


 現場では職人達が設計図を頭に叩き込み。

 ゼノ協力の下亜空間をヘコませて、基礎から作業を始めていく。

 職員達は資材の消費や発注等の裏方仕事を。

 現場の職人達が仕事をしやすい様に手配していっている。

 それでも職人達は、作業がし難くて仕方がなかった。


「なるほど、家とはこうして建てる物なのですね。材料の加工に組み立て、興味深いですね」


 そう。

 世界樹そっくりの姿と神々しさを放っているラケルが、近くに遠くにと職人達の作業を文字通り見学しているからだ。


 ゼノは基礎工事の指揮者から、ミリ単位で亜空間の操作を求められ。他所ラケルに気を払っている余裕はない。

 子供の様に興味深く観察し。

 大人の分別を持って距離を取り、触れずに見ているだけ。

 生産人形になったせいか元が動けない樹木だからか、何かを作る事への興味が押さえられない。

 ラケルは職人に配慮しているつもりで見学しながら、彼等にプレッシャーを感じさせていた。




「っしゃー!俺も作業開始するぜー!!」


 これ以上のお説教は他の職人達の足を引っ張るからと、パメラから解放されたベンソンは意気揚々と亜空間に入って来た。

 予めラケルが居ると通達されていたのに、残念な頭をしていてすっかり忘れていたベンソン。

 こんな一大事業、指揮だけで終わらせるのは勿体無い。

 そう考え、少人数でしている作業に参加しようと周囲を見回して。


「こんにちは、棟梁」

「んー?っひぃー!世界樹様ぁー!!」


 隣に来ていたラケルに驚き飛び退り。

 着地せずにそのまま、流れる様にジャンピング五体投地を行った。


 ドベシッ!!


 という激しい着地音と共に。


「そのままで良いので聞いてください」


 ごく普通に、伏したままで聞け。

 そう言ってのける元世界樹様。


「私に、建築について教授願えませんか?」

「喜んでっ!!」


 弟子入りせずに教えを乞うたラケルと、脳筋的にも立場的にもイエスとしか答えられないベンソン。

 職人達は一瞬、ベンソンを羨ましいと思ったが。

 これでプレッシャーも消えて、伸び伸びと作業が出来ると安心した。




「ではノコギリ、金槌、ノミ、かんなの順で練習して行きましょう」


「はい、棟梁」


「まずは、お……私が手本をして見せますから。あー……」


「俺。で、いいですよ。それと私はもう世界樹ではないので、ラケルと及びください」


「では、ラケル様と」





 その後。

 何も知らずに、建材を使って練習したラケル。


「調度良くここに木材があるので、これで練習しましょう」


 と、ベンソンの指定した角柱を端からノコギリで切り落としていく。

 しばらくして、そろそろ昼食だなと作業に切りをつけた1人の職人が居た。

 彼は建材を運んで来ては、ラケルに切らせているベンソンを発見。

 全力で走って亜空間を出ると、事の次第をパメラへと報告した。


 呼吸を落ち着け、水を飲んでから亜空間に戻ると。

 複数に分裂して見えるほど、高速移動してベンソンを蹴るパメラと。

 立てられた建材に後ろ手に縛られて、パメラにお仕置きされている棟梁の姿があった。


「何回言ったら、分かるんだい!ちょっとは考えてから行動しろって、いつもいってるだろ!?」


「かーちゃん、ごめんよー」

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