第87話 亜空間の豪邸5

 訓練中に起こる突風や衝撃波で移動しないように、外での建築と同じ様に豪邸にも基礎を用いる。

 その基礎工事が終わったので、ゼノはお役御免となった。

 なったのだが、大工・運命の資材置き場付近からは移動が禁止されていた。

 マッチョマンが無駄遣いした資材の運び入れだけでなく。

 毎日朝昼夕と、3度の出入りが必要になるからだ。

 内訳は仕事開始、昼食、上がりとなる。


 だが完成までのおよそ200日、ただボーッと座っているわけではない。

 亜空間の入口さえ開けておけば良いので、外でも中でも自由に行動出来る。

 ただ外での場合だけ、入口からの距離に気を付けなければならない。

 離れすぎると出入口が消えてしまうからだ。

 なので専らゼノは建築中は日中、亜空間内部で生活していた。



 かつての生活空間は既に撤去されていて、邪魔にならない様に離れた位置に移動させてある。

 3人娘は家具屋・姫に行って、豪邸の設計図と完成予想図。それと完成模型を持って行って、スタッフと家具の相談をしているのでここには居ない。

 居るのはテーブルに座って、積み木を使って重ねたり組み立て直したりしているラケル。

 その近くでイスに座り、本を読んでいるゼノだけだった。

 無音の亜空間なので大工達の作業音が届いてくるが、2人は気にした風もなく集中している。


 そもそもラケルの手先の器用さは、壊滅的であった。

 前身は世界樹で動けず、幻影は何にも触れられない。

 生産人形になって初めて、自発的に触れる事が可能になったのだから当然とも言える。

 理性があり体の動かせる赤子。

 ゼノはラケルの事を、そう評した。


 そんなラケルに対してゼノは、知育玩具の基礎である積み木を用意した。

 人型だが人間とは違う作りの体を、上手く制御可能になるようにと。

 積み木だけでは飽きるのでお絵描きセット、各種ボール、縄跳び、乗ったらバネで跳ぶ玩具、多種族仮想体験生涯ゲーム等も、3人娘に用意してもらった。


 プレゼント当初は目移りさせていたラケルだったが、ゼノの勧めで積み木から始めている。

 今は説明書に書いてあった組み立て例を参考にして、積み木を重ねていっている。

 ゼノは美的感覚がないからと3人娘を家具選定に向かわせ、自分の能力だからとラケルについている。


「ゼノ、次が出来ましたよ。今度のはどうです?」

「どれどれー」


 ゼノは本をイスに置いて立ち上がると、完成した積み木作品を見て評価を下す。


「うん、良いんじゃないか。個人的にはここに、ながブロックを横積みしたのが良い感じだ。それもわざわざ半分近くずらしてあって、城っぽく見えるのが高評価だ」


 毎回相手の褒めて欲しい場所が分かるわけではないので、自分なりの評価ポイントを探して褒めるのには苦労するが。

 最高ではないが、良き父としての資質を垣間見せるゼノ。

 ただし本人にその自覚はなかった。


 それにゼノ自身も、自分が家庭を持てるとも思っても居なかった。

女性にモテる、相手が居るとは別の意味で……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る