第66話 5日目 2

「厚かましいとは思うが、ゼノ殿達も力を貸してくれるかな?」

『いいともー!』


 エルフの国王フレデリック・シュトロハーゲンが言った、伝説の勇者の残したお約束につい返事をしてしまったゼノ、ミラ、サリア。

 まさかこの逼迫したタイミングでお約束を入れて来るとは思えず。

 3人共、つい条件反射で答えてしまった。


「とは言えゼノ殿には戦闘への参加ではなく、虹色草の増産を。ミラ殿には聖水を出して貰いたいのです。そしてサリア殿には2人の護衛を頼みたい」


「構いませんよ」

「最善を尽くします!」


「いや、アタシは前線に出る。2人は最悪、ゼノの能力で隠れれば絶対に安全だ。だったらアタシは、さっさと終わらせるために戦いに行く」


 決意を漲らせサリアが力強く決意を告げる。

 彼女は過去の経験から仲間を大切にし、理不尽や身勝手な者を嫌う傾向にある。

 魔人全体ではないが、少なくともベベルペルベのやり方は気に食わない。

 もし、反対されるのなら。

 サリアがそう考えていた時。


「サリア。勝手な行動はせず、座ったままでいろ」


 ゼノの声が静かに耳に届いた。


「ゼノ!テメ」


 ゼノの掌が差し出され、テメエと言いかけた言葉を止められる。


「この後、この場か移動先で作戦会議があるだろう。戦士がそれを聞かず、戦場で何をするつもりだ」


 サリアは自分の気持ちを汲んでくれた、リーダーの言葉が嬉しかった。

 愛おしさは湧かないが、全身に闘志が漲ってくる。


「それに1人じゃ退屈だろう?ジュディス、サリアに付き合ってやってくれないか?戦争で邪竜殺しを遊ばせておくほど、今のシュトロハーゲンに余裕はないはずだ。俺とミラは頼まれた仕事をするのが最適だからな。後方にいるから安全だ」


「はーい、わかりましたー。サリアちゃん、よろしくねー」

「ああ!」


「ミラも俺と同じで裏方仕事だが、問題ないな?」

「はい」


 サリアから物凄い闘気っぽいものが溢れてたから、出来るリーダー風に誘導して治めてみたが正解だったようだ。

 それに自衛の面でかなり心配だが、安全な後方でジュディスを遊ばしておくのも無駄だ。

 だったらサリアに付き添いさせて、お互いの背中を守り合ってもらおう。

 ミラの了解も得た事で、エルフ王フレデリックへと向き直る。


「俺達4名は仲間の故郷と世界樹を守るために、この国の協力依頼を受けよう」

「ゼノ殿……ありがとう」


 ゼノは仕事として受けてやるから、救国の雄だなんだのと言って遠慮せずに使えと。

 フレデリックも流石は王。

 その言外の意味を正確に見抜き、王として出来る最大限の感謝を口にしたのだった。


「報酬は俺が使用している亜空間内の設備の充実、でどうだ?」


 国庫が厳しいのに戦争なんて金食い虫にたかられてるんだ、格安で働いてやるから安心しな。

 邪竜の爪痕の残る国に追い打ちでの戦争。

 これで国の恩人に働いてもらったら、どけだけ支払う事になるか。


 ゼノとミラが作る神薬の素材の代金に、サリアとジュディスの戦働きの報酬。

 他にも国に属さないのに協力してくれた礼や、救国の雄としての立場に対する礼。

 それだけでシュトロハーゲンは大打撃になる。

 下手をすれば大赤字で払う金がないなんて事までありうる。


 通常は全て金銭での褒美ではなく爵位や土地、名誉などでその大部分を肩代わりするのだが。

 救国の雄という立場のゼノ達に与え、国の下に着けと言えるわけがない。

 ゼノはそれら全てを理解してはいるわけではないが、シュトロハーゲンの財政が厳しいのは推測出来る。

 だから金銭とは別の形での報酬を提示したのだ。

 亜空間が拡張してきて、ジュディスも仲間に入ったためベッドなども足りてない。

 そんな理由を後付にして。


「ゼノ殿、本当にありがとう」

「気にするな。折角救った国が滅んでは、甲斐がないからな」


 その場の全員からの尊敬などの好意的な視線を集めながら、ゼノの精神も限界に近かった。

 救国の雄ならこんな感じの態度が格好いいんじゃね?

 そう思って始めた自称救国者モードだったが、途中で。


(あれ?これ、不敬罪になるんじゃ?)


 と思い至り、背中が汗びっしょりになっていたのだった。

 例え予想外の行動に出ても、予想内の結果を出す男であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る