第55話 初日 2

 女性を不憫な目に合わせられないと亜空間に招待したが。居間に入れるつもりはないので、車庫で直座りして会話する。


「ゼノ様、始めましてー。私はバリウスの妹で、ジュディスっていいますー。正式な話しは国王様から直接されますけどー。私や数多くのエルフを救う万能薬の素材を、無償で沢山提供して下さったゼノさん専属の騎士にー。この度任命されましたー。これからよろしくお願いしますねー」


 ジュディスはエルフらしい凸の少ないスタイルをしている。くびれは服で見えないので、どれ程なのかは不明。

 金のゆるふわヘアーに若草色の瞳。

 のんびりおっとりした口調に対して、これまで見た動きには一切の無駄も隙きもない様に見える。

 森での活動を見越した装備なのか、金属の使用は極端に少なく。数少ない金属や金属部品には、音消しに布が巻かれている。

 他は革と布の防具を身に着けている。

 なお横に座っている今は、立っていた時よりも目線が低い。


(座高が身長の50パーセントを超えていて何が悪い!!)


 おっさんは心の中で、ひとり泣いた。




「それにしても、聞き捨てならない発言があったんだけど?」


 傷付いたおっさんは、態度を取り繕う事を止めた。


「はいー?なんでしたかー?」


 間延びした声は人によってはイライラするだろうが。

 ジュディスの声はゼノにとって緊張緩和の効果でもあるようだ。

 傷付いた心が癒やされ、謁見を予想させる言葉からのストレスも減った気がする。


「王様とか万能薬とか専属騎士とか」


「はいー、それでしたらー。言葉の通りですよー。邪竜退治後の半死半生やそれより酷かったエルフ数万を救った、万能薬の素材提供者ですからー。国としましては、断られてもお礼を押し付けないとー。体面が保てなくなっちゃいますからねー」


(いや、ねーってアンタ。まあ他種族だから爵位や領土はないだろうし。金銭や価値ある物。他には多少の権利ってとこかな?)




 ジュディスが後で仲間になるのが確定したので、会話の場所を車庫から居間へと移す。

 車庫に入った時も相当驚いていたが、居間に入ると更に驚いて興奮しだしたジュディス。


「ええええ!7色草が、まだこんなにー!!」

「エルフの国でまだ欲しいなら、1株残して持ってっていいよ?」


「上司と相談させて下さいー!私の一存じゃ判断出来ませんからー!」



 亜空間に入ってからもずっと、ミラはゼノの側で待機しているが。

 発言の権利がないので黙っている。

 色々投げたゼノと、おっとりしたジュディスの話し方で勘違いしそうになるが。

 チームの代表と国の使者との会話なのだ。

 発言は、求められない限りしてはならない。




 紙パックの茶葉がなくなったので、ペットボトルの烏龍茶を出す。


「後日チームに参入するのでー、詳しい自己紹介をしていきますねー。エルフとドワーフの共通の祖先であるエルドワーフ。私はそのエルドワーフに先祖返りした、国で最強の騎士なのです!邪竜も私が、95パーセントくらい殺しましたー。9割半殺しですねー。あっここ、国じゃ鉄板の笑いどころですよー?」


 既にゼノはお腹いっぱいである。

 ミラはますますチームが強くなって、母国の者に見つかっても安心度が上がったと声に出さずに喜んだ。


「それでですねー。邪竜は討伐して封印までは終わったんですけどー。国には呪いと破壊の爪痕が残ってー。私達騎士や戦士は大半が亡くなって、僅かな生き残りも手足や体の損傷が激しくてですねー。更には呪いにまで侵されていましてー。満足に戦える者は生き残りの2パーセントにもなりませんでしたー。それでも何人かは国の外に、青いパーポン草を探しに出たんですー。それでも進行した呪いが強くて、回復させるには至りませんでしたー。戦士が減りワイバーン等が数を増やしつつあった森でしたけど、僅か1日でほぼ全滅したと報告が入りましてー。そして異常がないか調べに行ったら、ゼノさん達を見つけて万能薬の素材を貰って帰ってきたんですよー」


(様と呼ばれて傅かれるのもいいが、親しげにさんと呼ばれるのもいいな)


 国の一大事にエルフ達の苦労話、そして自分の功績を聞かされても。

 持った感想は、モテない男の妄想だった。


「ゼノさーん、聞いてますかー?」

(癒やし系ゆるふわエルフ。なんて素晴らしいっ!!)


 ジュディスの首を傾げての疑問の声が、ゼノを更なる妄想に飛躍させるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る