エルフの国 生産人形

第54話 エルフと初日

「ゼノ殿ー!ゼノ殿は居られませんかー!エルフの国より正式な使者として、バリウスが参りました!!」


 亜空間の外では妹思いのエルフの男性、バリウスが大声をあげてゼノを呼んでいる。

 背後には複数のエルフを率い。

 全員の服や装備も。以前見た時の物よりも細かな細工や刺繍が見える、高価な品へと変更されていた。


 前回ゼノ達の乗る車が消えた空き地の手前で、バリウス達は待機している。

 だが数秒も待たずして。武具を身に纏ったゼノ一行が、何もない空間から現れた。


「なんとっ!?」

「我等が感知出来ぬとは」

「これ程の使い手が無名のまま埋もれていたのか……」


 バリウスの後方で待機するエルフが何か呟いているが、ヒトの標準的な聴力しかないゼノには聞こえていない。


「ゼノ殿、大変お待たせしました。我等エルフは、国を挙げてゼノ殿達3名を歓迎致します。どうか我等に着いて、エルフの国まで来ては頂けませんか?」


「喜んで、受けさせて頂きます」




 バリウスの話しによると、人間の足では30日以上も必要とする道程らしい。

 ゼノは道程と聞いて密かに傷付いた。


「ゼノ殿達には申し訳ありませんが、森では車等の移動手段が使えず。自分の足で歩くしかありませんので」


(うーん……歩きになると途中でサリアが飽きて、訓練とか言い出しそうなんだよねー。だったら解決策はひとつしかない)


「バリウス殿。私共には特別な足がありまして。それを用いれば、かなりの日数を短縮出来ると思います。サリア、サンカイオー出して」

「任せなっ!」


 戦闘時以外は変わらぬサリアは、威勢よく返事をすると亜空間へと入っていった。

 ゼノとミラは入口正面から退避して、サンカイオーの進路を空けた。

 亜空間からは通常のワゴン車よりも、一回り以上大きなサンカイオーが姿を現した。


『おおおおおおおおおお!!』

「これ程の物を隠しておけるなんて」

「これはヒトだからと言って侮っていたらタダでは済まなかったぞ」

「あの7色に光る薬草と言い聖水と言い。やはり敵に回すべきではないのか……」


 サリアはサンカイオーを垂直上昇させると、周囲を一周飛んでみせた。


「このワゴン車に乗って空を行けば、歩くより遥かに速い時間で到着しますよ。そして希望者は最初から最後まで、このワゴン車サンカイオーに乗ったまま空の旅を楽しんで下さい」

『おおおおおおおおおおおおおおおおお!!』


 バリウスを含め8人居たエルフのうち、1人の女性を除いた男性7人が搭乗を希望した。

 ゼノとミラそしてエルフの女性が先にサンカイオーに乗り、固定した入口から亜空間へと入る。

 そして亜空間の入口を閉じると、エルフの男性達か嬉々としてサンカイオーへと乗り込んだ。

 地獄の空中飛行だとも知らずに、希望と好奇心に満ちた表情を浮かべて。


 エルフの国にも車はあるのか、全員がシートベルトを着用した。

 最初は普通に浮かび上がり徐々にスピードを上げて、常識的な速度で飛行していた。

 そして誰かが言った。

 言ってしまった。



 もっとスピードは出せないのか?と。



 長い者で数分しか、彼等の意識は持たなかった。

 助手席と後部座席が汚れていなかったので、彼等の耐久力は称賛に値するだろう。

 今回は乗り物の性能とドライバーの相性が最高だから起きた、不幸な事件だったと諦める他ない。


 早朝に出発して、夕日が消える前にエルフの国へ到着した。

 これも全て、エルフの男性陣の尊い犠牲があったからこそだろう。

 彼等の負った車恐怖症は、万能薬でも治らなかったそうな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る