第50話 15日目

 マンティコアを倒して獣系の素材と毒針、毒腺を残して吸収した翌日。

 サリアが運動して満足したのだろう。

 今日は大人しくサンカイオーを運転している。

 ゼノは亜空間切断を実行しようとしたが。枯れ枝1本でも境界線上にあると、入口は閉じなかった。


「これからはミラの事を、チームの頭脳と呼ばなくちゃダメだね。昨日止められてなかったら、ワイバーンに亜空間をグチャグチャにされる所だったよ」


「よっ、軍師、頭脳、参謀!」

「ちょっとサリア、止めてよー」


 2人がじゃれ合い出したので、サリアの運転ミスにビビりながら。

 ゼノは後部スライドドアから亜空間に入った。

 あれ以降時間があれば7色草の葉を毟って、すり鉢ですり潰して乾燥させている。

 気化した水分だけで、僅かだが体感出来るくらい亜空間が広がる。

 体への負担もかなりあるので、日に1枚がせいぜいだが。

 乾燥粉末は瓶詰めにして保管してある。

 作業が終わると亜空間を出る。


 サンカイオーは変わらず高性能で、謎推進力を用いて無音で飛行している。

 そして使用エネルギーも謎のままだ。

 無限の動力なんてないし、あっても売りに出さない。例え何かの事情で売りに出しても、あの値段じゃ安すぎる。

 なので周囲の魔力か登場者の魔力。それか両方から魔力を吸収して、動力としているのだろう。


 そんな事を考えながら後列でシートベルトを着用して、中列のシートを倒して足を伸ばして座って寝た。

 亜空間の入口は開けたままなので、寝てても何とかなるだろう。

 そう気楽に考えて、運転する時間まで心身を休めた。



 戦士の休息時間は不規則だ。

 見張りで深夜に起きる事もあれば、休息中に襲われる事もままある。

 全く、戦場は俺を休ませてくれやしない。


 目覚めの瞬間から、最高潮でポンコツ思考をしているゼノ。

 バリアに包まれているサンカイオーが、大音量に見舞われて目を覚ました

 1度現実逃避する事で落ち着きを取り戻す、彼なりの精神制御方法だ。

 誰かに聞かれたら、半年は顔を合わせられない内容だが。




「状況は?」

「下から魔法かなんか撃たれた。被害は音だけ。相手は姿も数も不明」


 そうこう言っている間にも、炎、氷、見えないから多分風、他には岩、雷等々。

 様々なものがサンカイオー目掛けて飛んでくる。

 相手は複数位置から攻撃してくる。

 同じ場所からでも別の攻撃が飛んでくる。

 飛んでくる地点は同じ。


(魔道具による迎撃?)


「サリア、攻撃は無視して進んで。魔道具かどうか見極めたい」

「おう!」

(相変わらず、危険に対してだけは敏感な男だぜ)


 サリアは速度と高度を上げ、不規則に蛇行しながらサンカイオーを西へ進めた。

 次第に攻撃は散発的になり、終にはなくなった。


(魔道具なら金がかかりすぎる仕掛けだ。なら魔法陣か?○○の種族以外が近付いたら攻撃。簡単な命令だけを書き込んだ単一属性の魔法陣。それを近くに複数配置すれば、再現は可能だが……)


 ゼノは先の危険に対して高速で思考し、答えか候補を探していった。

 常にこれ程のスペックを発揮したら、多少はモテる要素になっただろうに。


 安全だと思ったのか、ミラと運転中のサリアが談笑している。

 今までで1番真剣な表情をしているゼノを見ている人物は、この世界の何処にも存在していなかった。

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