第51話 15日目 2

 樹海上空をサンカイオーが風を切って疾駆している。

 何かに追われている訳でもなく。

 サリアが退屈だからと限界に挑戦しているのだ。

 ゼノとミラはスピードの向こう側を見る、遥か前に耐えきれなくなり。

 生活魔法の亜空間に退避している。




「ゼノさん。このまま暫く、サリアに好きに運転させておきませんか?」

「理由は、その間だけは確実に訓練がなくなるらだね」


 2人は無言で、されど力強く両手で握手した。



「サリアの挑戦で少し遅れたけど、昼食作りますかー」

「あっ、お手伝いします」


「いや、いいよ。コンロもひとつだし、並行して作業するのはいつもの事だから」

「わかりました。お昼、お願いしますね」


 任せてと言ってゼノは、グレーのエプロンを着ける。

 汚れは常時吸収可能になったので、手洗いの必要はない。

 最近のメニューと冷蔵庫の中身を思い出しながら、食事のメニューを考えていく。


(足が近付いてる肉達の生姜焼きでいいか)


 コンロでフライパンを温めつつ、副菜も考えていく。

 定食にするかと鍋にタンクから聖水を入れて、宙に浮かべで生活魔法で熱する。

 味噌汁は粉末出汁や具材にする玉ねぎや油揚げも浮かべ、包丁で切っては浮かべて鍋に投入していく。


 そう言えばとコンロの火を止めて、フライパンも浮かべて調理を続ける。

 様々な肉を細かく切って炒め、醤油ベースのタレとチューブの生姜を入れる。

 色彩が足りないなと、キュウリ、レタス、トマトを切って生野菜サラダと言い張る。

 ドレッシングはオリーブオイルに少量の梅肉を混ぜて用意した。


 完成品を食器に移し替えて、味噌汁を椀によそって完成。

 超高速で空を行くから怖いので、亜空間から顔だけだしてサリアに声をかける。


「サリアー!昼食だから、どこかに停車!」

 ハイになってて聞こえていないので大声で呼びかける。

 ゼノの声に気付いたサリアはサンカイオーの高度を下げて、バリアに任せ木に体当たり。

 無理矢理更地を作ると、サンカイオーを停車させた。

 木は亜空間に吸収させるべく、サリアに切って亜空間に入れさせた。


 ゼノがサンカイオーから外に出て、サンカイオーの後ろに亜空間の入口を開ける。

 サリアがバックで駐車すると入口を閉じて居間に移動。

 テーブルに着き食事を開始する。


「あっ、お茶忘れてた」

「お茶どころの話しじゃないですよ、ゼノさん!さっきのアレは何なんですか!お鍋とかフライパンが浮いてましたよね!?」


 冷蔵庫にお茶を取りに行こうとしたゼノに、驚きから再起動したミラが質問しながら吠える。

 ゼノはコップとお茶を用意しながらも、簡潔に答えていく。


「俺の力で、1人で。あの大きな風呂を移動させられるとでも?」

「はっ!なるほど」

(まーた何か、ヘンテコ能力に目覚めたのか。今度は何だ?浮かべる?)


 ミラは納得したので食事を始め、サリアはそのうち判明するだろと気にせず食事を続けている。



 朱に染まれば赤くなると言うが。

 チーム唯一の常識人のミラはどれだけの間、常識人で居られるのだろうか。

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