第49話 4000アンド6000PV突破記念

 コビット村のサリアと言えば。近くの村で知らない者は居ないと言う程、名の知れたお転婆娘だ。


 生後半年で立ち上がり、僅か3歳で単体で素手とは言えゴブリンを殺してのけた。

 ただその類稀なる身体能力は村人に向かう事はなく。

 5歳の段階でナイフ片手に1人村の外を巡り、低位の魔物を狩りながら果物等を村へと持ち帰った。

 田舎の村だ。

 当然全員がサリアを受け入れるわけもなく、悪し様に言う者も少なからず居た。



 村の周囲から魔物や獣が少なくなると、近隣の村の近くでも魔物を狩る様になった。

 その時狩った獣は、自分の家族の分以外はその村に置いてきた。

 狩りとお裾分けを続ける事で、次第にサリアを悪し様に言う者は減り。お転婆娘と好意的に言われる様になっていった。


 村にかなりの貢献をしてきたサリア。

 彼女に秘密にして村全体で、サリアの念願だった街への旅費が貯められていた。


 サリアが10になる年。

 行商に来ていた商隊と共に街へと出る許可が、村長から与えられた。

 許可証の木版を懐に入れ、彼女は村から旅立って行った。



 街へと到着する前日。

 野営の場所から離れ用足しをしようと、近くの草むらへ移動していたら。

 態度の悪かった護衛の傭兵に襲われた。

 無傷どころか、指1本触れさせなかったが。

 以降、男に対して一定の距離を保つ様になった。

 その男は街で犯罪奴隷にされ、魔物の領域の最前線で戦わされているはずだ。




 万屋に登録した初日からサリアは目立った。

 成長著しく既に14程に見える姿をしていて、体付きも男が好んで寄って来るものになりつつあった。

 当然の様に天狗になっていた戦闘万屋の男が声を掛けて来て、これを撃退。

 これが怒りに触れた仲間の男達も、やはり彼女に襲い掛かるが……

 登録前の10歳の娘にボコボコにされたチームと蔑まれ、男達は街から去っていった。


 サリアの実力と容姿に目が眩んだ男達から、チームの誘いが連日届いた。

 だがこの時既に、彼女は殆どの男は信じられなくなっていた。


 それからは女性だけのチーム複数を移り、これまでで1番マシなチームに居座る事にした。

 剣士、戦士、斥候の3人チームにサリアが入った形になる。


 仲間との実力差がある為、全力で戦うどころか。1番の強敵を3人に譲り戦闘経験を積ませ、自分は周囲の魔物の掃除をしていた。

 彼女とっては強敵も周囲の魔物も、等しくザコだったが。仲間からすれば、数日は休日にしなければならない程に強い相手だった。

 全力で戦えない、抑圧された戦闘が気に入らないサリアは。仲間の休日の間は遠出して、自分から見た強敵と戦って暴れ。ストレスを発散していた。


 そんな日々が8年続いた。




 仲間の3人が妊娠した。

 最近E級の優男に入れ込んでいると思ったら、3人揃って食われていやがった。

 あの野郎。育児に金が必要に必要になるからって、チームの共同資金まで持っていきやがった。

 アタシに残されたのは自分の荷物と金。それと扱い辛いからって押し付けられた、ダンジョン産の連接剣だけ。


 アタシはギルドにチームを抜ける申請を通させると、1人連接剣の扱い方を磨きながら旅をした。

 アタシには実力はあっても運はなかった。

 行く先々で男に絡まれ。

 女だけのチームを見つけても、心に響くモノがなかった。

 もう、我慢しながら戦うなんて我慢出来なかったからな。

 魅力を感じないチームには、入るつもりはない。


 戦闘万屋は都市を移動するもんだ。

 護衛で移動する事もあれば、獲物を求めたり武具を求めたり。

 酒や食い物、女の噂を聞いて移動するなんて奴も居る。

 だからアタシも1度行って、仲間に入れそうなチームがなかったからって。同じ都市に2度と行かないなんて事はしなかった。


 その時の気分で西に東に、南へ北へ。

 こっちに風が吹いた、あっちは天気が悪い。

 気分が乗らない、面白そうな事がある気がする。

 方向を決める理由もその時々の気分で決めた。

 だから、この街に来るのも2年振りくらいになる。


 当然アタシを知らない奴も居て、アタシが知らない奴も居た。

 初日にワンパンで格付けは終わった。

 あれでアタシと同じB級ってんだから、笑うしかない。

 アタシは2年前の仲間に合わせてたから、B級で止まったまま放っておいた。

 結局アイツ等はC級までしか届かなかったけどな。


 いつもの様にギルドのイスに座って戦闘万屋達を観察する。

 今回も数日観察したら、最近騒いだっていう西の森で少し稼いで次に行くだろう。

 ひょっとしたら、引退するまでこんな生活を続けるのかもな。

 最近は特にそう思う様になった。

 我ながら女々しいこった。


 そんな時、掲示板の前で話す男の声が聞こえてきた。

 プッ!

 どう見ても戦士のコスプレしたおっさんじゃねーか。

 笑いを堪えたまま暫くは思い出し笑いのネタになると、そのおっさんを集中して観察する。


 おいおい。あんなモヤシ野郎が、そんな事まで気付くのかよ?

 立ち姿からはどう見ても、戦闘経験も戦闘力もないおっさん。

 それが縄張り争いの危険性を言い当てやがった。

 しかも隣に居る女の子を誘導して、答えを考えさせて。

 もしあのおっさんが襲って来ても、アタシなら寝てても倒せる。

 それに隣のあの娘を、変態の魔手から守る事も出来る。


 2人は共に頭脳面で優秀っぽいし。

 こりゃひょっとしたら、ひょっとして。

 原石、見つけちまったか?





 チームに入って数日。

 ゼノは面白い野郎だ。

 何よりいいのが。アタシ等を女として扱う割に、女として見ない。

 視線に体が入ると、首が折れるぞってくらい横を向くのも面白い。

 しかも純情なんじゃなくて、ヘタレ童貞。


 なのに持ってる能力はピカイチ。

 マイカーじゃなくてチームの車だが、最高に楽しめる車も買えた。

 これからも仲間としてなら、いい関係が築けそうだ。



 それにしても。

 アタシを組み敷けるくらい強くて、性格のいい男はいないもんか?

 早く見つけないと、ババアになっちまう。


 ……まあ、コイツ等となら。それもいいかもな!!

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