第39話 8日目 2

 車を買うなら、いつものギルドの裏路地での待ち合わせは難しい。

 かと言って待ち合わせ場所を決めていないので、ここから離れるわけにはいかない。


(二律背反で悩むより、1度でいいから美女に板挟みにされて悩みたい)


 この場で待つしかないと答えを出したので、願望満載の思考をしながらイスに座ってダラダラする。

 まだスペースが足りずにソファーを買えなかったのだ。

 代わりにイスは同じデザインの物を2脚購入して、サリアも同じイスに座れる様にした。

 もう1脚は未来のチームメイト用だ。


 考えるネタもなくなりかけたので、生活空間について考えてみる。

 風呂の重さをなくしたのか、風呂だけ無重力にした。

 風呂を念じた通りに移動設置させた。

 湯を湧かした。


 これまで魔物や汚れの吸収だけさせてきたので、他の能力については未知数。

 分かりやすい湯湧かし以外にも、最低ふたつの能力について検証していかないとな。


 まずは重さについて。

 落ちても壊れない物の代表として、自分の枕を使って実験してみる。


(最初は、浮け)


 ベッドに置いてある枕はスーッと浮き上がると、一定の高さで静止した。

 言葉にせずに右掌を広げて、受け止めるイメージを持つ。

 パスンと軽い音を立てて、手に吸い付く様に枕が移動してきた。

 そのままイメージで上下左右、自分を中心に公転軌道で移動させてみる。

 枕を戻し、次は自分を浮かべてみる。


(俺よ、3センチだけ浮け)


 しかし足の裏には床の感触が残ったままだ。


(自分、又は生物には効果がない?)


 次は何を試そうかと考えたいたら、外にミラ達の反応がしたので中断。

 外に出て出迎える。


「おかえり」

「ただいま帰りました」

「ただいまー」


「どう?満足出来る物は買えた?」

「はい!」

「おう!っても納車はまだ明後日なんだけどな」


「手続きがあるんだ。それに待つ時間も楽しみだろう?」

「へっ、まあな」


「俺からの連絡は、中の間取りを変えて…なんと、風呂をヘブッ!」


 ゼノが最後まで言うより速く、動き出したふたつの影がゼノを吹き飛ばす。

 サリアが先行し、背後をミラが走る。

 車庫奥のドアを開けて居間に飛び込むと、視線を左右に走らせる。


 居間の奥に見慣れぬスライドドアがあったので、走り寄りドアを開ける。

 中は床が1段低くなっていて着替えを置く棚と、更に奥へと続くスライドドアがあった。

 ドアを開け奥へと進むと、狭い洗い場と広い風呂があった。

 こちらも1段床が低くなっていて、水が脱衣所に流れない様になっている。

 風呂には湯が満たされており、直ぐにでも入浴が出来そうだ。


 振り返るとどちらのドアにも鍵が掛けられる様になっていたので。2人は走って着替えを手にし。狭い脱衣所でもどかしげに服を脱ぐと風呂場へと雪崩込んだ。




 2人が風呂から上がって寛いでいた頃。

 ゼノはなんとか車庫に入り、入口を閉めると気を失った。

 ミラ達がベッドに向かって声を掛けても反応がなく、ゼノのベッドを見ても不在。

 トイレも無人で何処に行ったのかと探してみたら。

 車庫でボロボロになったゼノが見つかった。

 魔法で回復され深夜に目覚めたゼノに、2人は目茶苦茶説教された。

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