第22話 3日目 3

 一部屋分の亜空間しか取り柄のない、ヘタレなおっさんと。

 アニメの中から出て来た様な8の字体型の、フルフェイス仮面の少女のチームに。

 高い戦闘能力と積極性を持った少女より凹凸の激しい、赤髪ツンツン美女が参入した。


(俺、部外者の羨みや嫉妬で闇討ちされるかもしれない)


 ゼノはこれまで以上に目立たない様に行動して、なるべく早く自衛力を身に着けようと決意した。



 ギルドの壁掛け時計は午前10時前を指している。

 職員のお説教が思ったよりも長かった様だ。

 既に受付けに並ぶ万屋はなく、ギルドの中には数える程しか人が居なかった。


(土壇場にならなきゃ人の本性は見えないけど、それまでサリアに生活魔法を秘密にするのは不可能だ。だから今日にでも生活魔法の話をして、亜空間前提で街から出る予定を立てて貰わないと)


 そうと決めればゼノの行動は速かった。


「サリア。さっき少しだけ話しに出た、俺の特殊能力について話したい。着いてきてくれ」


「あん?いいぜ、リーダー。実はちょっと気になってたんだよなー」


 後頭部で指を組み機嫌を良くしながら、最後尾をサリアが歩いてくる。

 回復魔法師のミラは、2人に挟まれる形で移動している。


(隊列以前にサリアのタイプも聞いておかないとな。あれだけ打撃力があるのに、実は魔法師でしたとか言われたら辛い。俺だけ前衛しなきゃならないしな)


 サリアは袖のないシャツに肩掛けの胸鎧に、指先から肘まである甲付きで厚手のグローブ。

 丈夫な長ズボンに、金属で補強された膝下まであるブーツを履いている。

 今は武器を所持してない様だが、動ける魔法師でもなければ戦士だろう。

 魔法師が強者になると、リアル魔法剣士になったりする世界だから。戦闘職に就いている者を、見た目や先入観で判断するのはとても危険なのだ。



 サリアについてどこまで聞いていいか、タブーは何かを考えながら。いつものギルド裏まで来た。


「ミラ。サリアを案内してあげて」


「わかりました。サリアさん、私の手を握って下さい」


「んん?ああ…」


 なんの説明もないままでも、素直にミラの手を握ったサリア。

 それを確認してゼノは、生活魔法の亜空間を開いた。

 真っ直ぐ前を歩いていたはずなのに、突然ゼノが消えて混乱するも。手を握っているミラが落ち着いたままなので、困惑しながらも流れに身を任せる事にした。


 そしてその場からは、3人の男女が姿を消した。



「うぉぉぉーーー!すっげー!なんだこれーーー!!」


 亜空間に入った直後、サリアが大声て吠えた。

 ミラは仮面の効果なのか、真横で吠えられても動じていたかったが。ゼノは耳がキンキンして仕方がなかった。

 サリアが狭い亜空間を探検する間に、耳は正常に戻った。

 箱買いしたペットボトルのお茶を出し。2人はテーブルに着いて、サリアが落ち着くのを待った。


「おもしれーな、ここ。どうなってんだ?」


 大して見る物もないので、サリアは直ぐにテーブルに着いて用意されていたコップを傾けた。

 空になったサリアのコップにミラがお茶を追加している。

 ゼノはギルドタグをサリアに渡して見せながら、話しを始める。


「見ての通り俺の能力は生活魔法、それしかない。そして俺の生活魔法とは、中で生活出来る魔法の様な空間の能力だ」


「は?」


 サリアは何言ってんだこのおっさんとばかりに、訝しげな顔をしてゼノを見ている。

 ゼノはそれに取り合わずに説明を続ける。


「一般的な生活魔法とは本来、属性練習魔法と言う。この世の何処にも、んだよ。俺が発現させるまでは」


「なっ、それじゃ!」


「そうだ。俺達チームは街の外でも、見張りもなく安全にベッドで寝られる」


「っしゃーーー!!」


 サリアは驚愕の事実を受け止めると、心の底から喜び叫んだ。

 ゼノの鼓膜に多大なダメージを与えながら。

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