第20話 3日目

 食後は亜空間に汚れやゴミを吸収させ、満足に動かないので脱ぐだけにして寝た。

 ミラが着替え等で出すゴソゴソといった音は、既にスルーする技術を身に着けている。

 こうしたスルースキルは社会人にとって必須技能だったなと、嬉しくない懐かしさを思い出しながら。

 ゼノの意識は沈んでいった。



 どうしても遅刻できない仕事がある時以外、使わない事になった目覚し時計に頼らずとも。2人共、7時前後には起床した。

 外出着に着替え、列車に乗って万屋ギルドまで移動する。

 途中に見つけたコンビニに入り、朝食を買ってから亜空間で食べる。


 ギルドの裏手まで歩いて亜空間に入り、戦闘服に着替えてから正面入口へと向かう。

 いちいち亜空間に出たり入ったりと面倒に思うが、装備の重さも軽くない。

 更にミラから言わせるとオシャレじゃないので、街中くらいは普段着で移動したいそうだ。

 仮面はミラとしてはオシャレなんだなと、ゼノは気を付ける点として忘れまいと強く念じた。


 現在の完全装備(ダミーの荷物袋あり)でギルドに入ると、ゼノはミラの服の背中を掴んで後方に跳んだ。

 直後にギルドの入口に入って1歩目の地点に、肩幅の広い巨漢が背中から飛んできた。


「女だからって舐めた口きいてると。テメエのタマ、踏み潰してやるよ!」


 声の主を見ると、鮮血の様に赤い短髪をツンツンさせた戦闘万屋らしき女が。握った拳の親指を下に伸ばして、威勢よく啖呵を切っていた。


 ゼノは近くに居たからと、巨漢の意識を確認した。

 巨漢は気絶していたので呼吸と心音を確認する。


「大丈夫、手加減が上手かったんだろう。気絶しているだけだ」


 巨漢の仲間ではなさそうな男達が、巨漢を運んでいった。

 1人が巨漢の財布をスッた瞬間を見たが、ゼノは感違い見間違いという事にした。

 面倒に巻き込まれるのはごめんだからだ。


 赤毛の女も巨漢を殴るか蹴るかして、吹き飛ばしたので気が晴れたのだろう。

 以降は誰にも絡む事なく、ベンチに座っている。

 おそらく仲間を待っているのだろう。

 それ以上気にも留めず、ゼノ達は依頼の掲示板を見に行く。


 この掲示板は基本的に、人数不問で何チームでも受けられる物しか掲載しない。

 理由は分不相応な依頼を受けられなくする為だ。

 制限のある依頼は受付けで実力実績から選ばれ、幾つかの候補が提示されその中から選択する。

 なのでギルドが開いた直後から、受付けに多くのチーム代表が殺到。

 より多くの選択肢から、より良い依頼を受けようと必死になる。

 なおギルドの美人受付嬢には、1番不人気の仕事時間だ。


 新人のF級はおろかE級程度には、受付けで依頼が提示される事はまずない。

 それも最初に貰った小冊子に書いてあった。

 なので2人は掲示板の前で、代わり映えのしない内容から今に合った仕事を探す。


「ゴブリンフィーバーももう終わりでしょうし、しばらくは採取か街中の仕事ですかねー」


「それに今には西の森に近付くのは危ないだろうしね」


「何故です?キングゴブリンも残党も狩り尽くされ…あっ勢力図!」


 途中で気付いたミラに、正解と頷く。


 キングゴブリン自体はB級の戦士系と同程度の実力しかない。

 しかし軍団と呼べるまで、その勢力を拡大していた。

 そしてキングゴブリンが倒れ勢力の空白地帯が出来て数日。

 そろそろ森の奥の強力な魔物が、縄張りを広げる為に動き出す頃合いだ。


 縄張り争いに敗れ追い出された魔物が、森の浅い部分に現れる確率も少なからず存在する。

 スラムで危険予測能力を鍛えられたゼノは、いち早くその事実に辿り着き。仕事の候補地から外していた。


「仕方ない、別の街でゴブリンを探すか」


「ちょーっと待ったー!そこのおっさんと仮面の少女。アタシの話しを聞いてみ」


 ゼノはミラの手首を掴むと、脇目も振らずにギルドの出口へ走り出た。

 面倒に巻き込まれるのはごめんだからだ。

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