第17話 青いパーポン草を求めて

「仕事があるので、これで」


 と逃げた男性職員がドアを閉めると、その音で世界が動き出した。

 ゼノは美男子エルフに近付き片膝立ちになり、五体投地している肩に手を置くと。


「頭を上げてイスに座って理由を話してください。貴方の様子から察するに営利目的ではないのでしょうが、こちらとしても変え難い利益を出すのです。ただ頭を下げられたからと言って、差し出せる程。あの金額は私達には安くないのです」


「ああ、すまない」


 謝罪して立ち上がり、部屋の奥側のテーブルに着くエルフ。

 それを見てからゼノとミラも、入口側のイスに腰掛ける。


「ことの起こりは3年?いや、4年前だったか?すまない。エルフなもので、年月の感覚が適当なのだ。その頃私は妹を含めた同胞達と共に、故郷の周辺の見回りをしていたのだ」





 巡回の時間やルートは固定化しない。手間はかかるが防犯の為には必要な措置だ。あの日はそれが良くもあり、悪くもあった。


 良かった点は。故郷へ向かい我等エルフを食おうとしている邪竜を、早期発見出来た事。

 悪かった点は。戦える同胞の半数が死亡し、無事だった者は残りの2パーセントにもならなかった事だ。

 残りの者達は大なり小なり、後遺症を残している。


 そして今も満足に回復せずに寝たきりの者が居る。

 それの中の1人が私の妹だ。

 同胞最高の薬師でもある治療師は、妹の体を治すには特上のパーポン草の群生地に稀にある。青いパーポン草が必要だと言う。

 だから私と同胞達は青いパーポン草を求めて、各地の大都市で働きながら情報を集めていたのだ。


 そして今日、青いパーポン草の手掛かりが見つかった。

 だから頼む、妹の為にも特上のパーポン草の群生地を教えてくれ。

 私の財産全てを差し出してもいい。ヒト族なら人生7回遊んで暮らせるだけの金額は超える。

 だから頼む、この通りだ。





 そう言ってエルフは両手を着くと、テーブルに頭を擦りつけてゼノ達に懇願した。


「こちらの条件を2つ守って頂けるなら、青いパーポン草は差し上げましょう」


 ピクッ

 予想だにしなかったゼノの言葉に、エルフは姿勢を変えずに一瞬反応した。


「1つは妹さんが元気になったら、私達に顔を見せに来てください。もう1つは妹さん以外には、誰にも私達の事を話さないで下さい。この2つを守れると誓ってくださるなら、青いパーポン草は無料で差し上げましょう。当然それ以降は、関係を断ってくれても構いません」


 エルフはテーブルから手を離し、困惑した表情でゼノを見つめる。


「何が目的なのです?何故そんな破格の条件なのですか!!」


 人間全種族の中で最も総人口が多い為に、最も悪人も多いヒト族。

 だから基本的に、ヒト族とは表面上の付き合いしかするな。

 どの種族でもそう教えられる。

 だから目の前のエルフが、ゼノの言葉を信じられないのは当然の反応だった。


 だからゼノは、指を伸ばした手を肩の辺りに掲げて。


「今私が貴方に言った条件。それ以外を求めないと創造の主神、契約の神、断罪の神、死の神に誓いましょう」


 宣言の後にゼノの体が、薄っすらと白く光る。

 そして席を立ち亜空間へ消えると、驚くエルフの前に現れ1つのボウルを差し出した。


「なっ、これは!?」


 ボウルに植わっている青いパーポン草を目にして、固まっているエルフ。


 その間にゼノとミラは個室を出、その足でギルドを後にした。

 この日ミラの足取りは、いつもよりほんの少しだけ軽かった。

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