第16話 2日目 2
個室から出て来た男性職員は再び受付けカウンターに座ると、2人の前に明細書を出した。
「こちらが買い取りの明細となっております。ご確認下さい」
先程絶叫を上げた者と同一人物とは思えない、完璧なスマイルでの対応だ。
ただ心なしかその笑みに、本心が混じっている気がするのはミラの考え過ぎだろうか。
「ごっ!?」
「ゼノさん、どうしましたか?」
明細書を見て声を詰まらせたゼノを訝しみ、渡された明細書を見ると。
そこには買い取りの種類と個数、それぞれの金額が書かれており。その合計金額は507万イエンとなっていた。
「ごっ!?」
ゼノと全く一緒で、金額を叫びそうになって慌てて止めたミラ。
間違いないのかと男性職員を見てみるが。
「その内容に間違いはございません。薬草のプロフェッショナルにも確認しましたので、内容も金額も適切だと断言致します」
あの個室に待機していたのか、奥から個室に入れるのだろう。受付け職員とは別に査定に詳しい専門の職員が居る様だ。
説明に納得したミラは、明細書を職員に渡した。
「はい、こちらの内容で大丈夫です。売らせて頂きます」
「では、もう少々お待ち下さい」
男性職員は個室から麻袋と封筒を持って、三度受付けカウンターへと座る。
折り畳んだ麻袋をゼノに渡し、先程と同一の明細書をカウンターに乗せた。
「こちらはお返しします。こちらは明細書の写しとなります。両方にサインして頂き、ギルドの判を押して買い取り終了となります」
ゼノとミラは明細書に不備や相違点がないことを確認すると、代表してゼノがサインをした。
男性職員はギルドの名前や日付の入った判子を、両方の明細書に押すと片方と封筒を差し出した。
「こちら明細書と代金になります。ご確認下さい」
ゼノとミラは自分達の体で紙幣を隠し、10枚ずつ数えていく。
「1、2、3、4、5、6、7。はい確かに」
10枚50回と7枚を数え終わってから、即座に封筒に戻して亜空間に収納するゼノ。
それを見て一息つくミラ。
「それでよろしければ、うちの職員がお2人に話しを聞きたいと言っておりして。如何でしょうか?」
「ちょっと考えさせて下さい」
ゼノが返事をする前にミラが言い切り、ゼノの腕を引きギルドの角まで連れて行く。
「まずい事に…は、なってないでしょうけど。面倒な事にはなったみたいですね」
「ああ。あの薬草の…パーポン草だっけ?5株だけ100万イエンで売れていたからね。間違いなく亜空間で栽培した薬草だよね」
「私もそう思います。何故あの金額になったとか考えても分からないので。あれは偶然見つけたという事にしましよう。考える事を止めて採取していたので、どこで採取したか覚えていないとしましょう」
「賛成」
打ち合わせと合意を確認した2人は。
男性職員に返事をして、査定していたであろう個室に案内された。
「こちらへどうぞ。話しは中の職員とお願いします」
2人が案内されて個室に入ると、縦横に広い木製のテーブルとイスがあり。
部屋の奥側には20代半ばに見える、金髪緑目の美男子エルフが悲痛な表情をして座っていた。
「頼む。あの特上のパーポン草の採取場所を教えてくれ。この通りだ」
テーブルを回ってきたエルフの青年は、挨拶も抜きに五体投地して懇願してきた。
「どうしましょう、これ」
「俺に聞かれてもなー」
困惑するミラに、何も返せないゼノ。
そして。去り時を失った男性職員が棒立ちしていた。
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