第15話 2日目
生きたゴブリンの消えた森で、森の幸とゴブリンの死体を回収しながら2人の戦士が歩く。
戦士と言っても装備からそう見えるだけで、見習い戦士と回復魔法師のコンビである。
「今朝見たら薬草が増えていたから、街に帰ったら各種類1株だけ残して後は売ろうと思うんだ」
「いいですね。増産に成功したら、薬草農家を副業に出来ますね。後はどんな条件で栽培が可能なのか、調べないといけませんね」
そうだねーと返事をしながら、開けた亜空間に向けてゴブリンの死体を蹴り飛ばすゼノ。
土を掘って採取した薬草類は、土ごとブルーシートに乗せてテーブルを退けた場所で保管している。
プルトップで開けた豆の缶詰にスプーンを入れて、遅い昼食を歩き食べしながら。
これ以上森の奥へは行かずに、深くない場所を広範囲に歩き回る。
正面に開けた亜空間にゴブリンの死体を蹴り飛ばし、一瞬で分解吸収させてから亜空間を閉じる。
何度も繰り返すうちに、歩行を妨げずに熟せる様になっていった。
自然と採取はミラが担当する様になり。
仮面の機能なのか目視し辛い場所でも何かを発見し、スコップを持って走っていく。
なお。ゼノの死体蹴りは効率化出来ただけで、別段急いではいない。
「ミラ。採取に走らなくても急がなくても、俺は全く気にならないよ?」
「いえ。少しでも動いて、体力をつけないと。実戦では体力も精神力も、練習の何倍もの速さで消費するらしいですから。今のうちから少しでも鍛えておかないといけません」
(最近の若い子はしっかりしてるねぇー)
年上目線で若い眩しさを羨みながら、自分のダメさ加減で捨てられるかも知れないと思い。密かに体を鍛える決心をしたおっさんだった。
昼過ぎになり森を正面右手側からぐるりと、浅い部分を半周したので森での仕事は終了。
今なら安全である可能性は高いが、森の奥に入ってまで保証されるものではない。
2人の意見はどちらも安全第一で、澱みなく街へと戻る選択をした。
道中。行きにはなかったゴブリンの死体が複数あった。
森の狩りから逃げてきたが、遅れてきた新人万屋に倒されたのだろう。
ゼノはこれも素材と、ありがたく蹴り飛ばすと亜空間に吸収させた。
街の防壁門を潜り抜け、少し歩いて万屋ギルドへと直行する。
現在何も依頼を受けてはいないが、採取と増殖をし過ぎた薬草を売りに来たのだ。
ゼノは真っ直ぐに美女ではない、男性職員が受付けに座るカウンターに向かった。
美人受付嬢の座るカウンターには長蛇の列が並び、待つのがバカらしいからだ。
将を欲すれば先ず馬だが、その馬を落とす実力もないのでは話しにならない。
その点ゼノは馬すら倒す実力はないと諦めているので、将を求めて列に並ぶ無駄はしない。
この場合将とは美人受付嬢であり、馬を倒す実力とは顔面偏差値や収入である。
「いらっしゃいませ、どの様なご用件でしょうか」
初日の女性職員と違い、男性職員の丁寧な挨拶が身に染みる。
「薬草を採取してきた。買い取りをお願いしたい」
「かしこまりました、こちらへお出し下さい」
職員に促され、中身がパンパンに詰まった麻袋をカウンターに置く。
受付けで亜空間に入って薬草を出すロスは犯さず、帰り道の休憩時間に袋詰めしていたのだ。
後は買い取りに出すタイミングで、亜空間から出せば無駄なく手ぶらで歩ける。
「では、少々預からさせていただきます」
男性職員が麻袋を持って内密に査定する為であろう個室へと入っていく。
(人によっては30代はまだまだ若いって言うけど。10代や20代前半に比べて体力落ちたよなー)
等とゼノが考えていたら。
「ええええええーーー!!」
と。先程個室に入っていった男性職員の叫び声が聞こえてきた。
(あー、これは。また面倒事の予感ですね)
ゼノが心配そうに個室のドアを見守る隣で。
ミラだけは、己の騒動誘引体質を諦めていた。
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