第14話 初の都市外亜空間睡眠

 森で野営をする意味はないので、焚き火を消火して砂をかけてから亜空間に入る。


「高級料理とはまた、違った美味しさがありました。ゼノさん、ご馳走様でした」

「お粗末様でした。桶にお湯を用意したから、体を拭き終わったら教えて」


 ベッド区画以外の物を端へ除けて、テーブルのあった場所でミラは体を拭いていく。

 万一の事もあるので湯浴み着を着用し、桶の影にナイフを隠し、服の中に濡らしたタオルを入れて拭いていく。

 頭部…特に髪や頭皮はフルフェイスの仮面の効果で、かなり清潔に保たれているが、首から下は森の中を歩いたので、汗に汚れが付着して桶の湯が薄く色付いた。


「ゼノさん、終わりました」

「わかった」


 衝立の間仕切り越しにミラがゼノに合図をすると、桶の湯と湯浴み着の水分が亜空間に吸収されて消えていった。

 それを確認してからミラは桶に一般的な生活魔法………属性練習魔法で湯を満たそうとする。


「あっ、ミラ、ちょっとまって」

「はい?」


 直前で魔法の使用を止められ、ミラが小首を傾げ疑問の声を上げる。


「今、水分吸収と一緒に、汚れも吸収出来てね、体を拭く必要がなくなったんだ。だからリラックスしたい時とかじゃないと、お湯で体を拭かなくてもよくなったんだ」


「そうですか。でしたらお湯は出さずに、私は着替えさせて貰いますね」

「どうぞどうぞ」


 返事を聞く前からミラは自分の区画に入り始め、ベッドの脇に立つと楽な服装に着替えだした。

 湯浴み前の着替えの最中も、湯浴みの最中もゼノからの視線がなかったと安心して。

 今も視線を感じていない事に、少し自信が傷付いて。


(事故でもこんな年上のダメ男が乙女の柔肌を覗いてしまったら、責任を取る事になって、ミラに不本意な結婚をさせてしまう)


 ゼノは直ぐ近くで、豊満な少女が湯浴みしているという状況にドキドキしながらも。

 持ち前のヘタレ根性を発揮して、ベッドに寝転び目を瞑り耳を塞いでいた。

 ミラに返事をした後は、日中の疲れからかそのまま眠ってしまった。



 ベッド、壁際にクローゼット、間仕切り、壁際にクローゼット、ベッドと。各自自分用の…ミラのクローゼットの中で、今朝は目覚し時計が使用されずに鎮座していた。

 この日はギルドに用向きがないため、朝はそれぞれ寝たいだけ寝ると決めていた。


 まだ資金にはかなりの余裕があり、新人には感じ取り難い疲労が蓄積するのを防ぐ為だ。

 流石にまだ200万イエン以上あるので、なくなる前に貯蓄出来るまでに強くなっている予定だ。


 2人共自分の予想以上に疲れていて、目覚めたのはゼノが9時過ぎだった。

 着替えて亜空間の外で朝食を作ろうと、間仕切りからテーブル区画に出る。

 ボウルに植えた薬草が生い茂っているのが目に入った。

 葉の緑が濃くなり大きさも倍以上に。

 株も1つだったはずが、7つにまで増えていた。

 うち1株は緑ではなく、全体的に青くなっていた。

 ギルドで緑5株を売る事にして、緑1株と青い薬草はプランターを買い、本格栽培しようと決めた。

 薬草が売れればそのくらいの代金にはなるだろうと、ゼノはかなり楽しみにしている。

 目指せ低労働高収入だ。


 薬草の行く末を決めると朝食の食材をチョイスして、亜空間の外が安全か確認してから出る。

 切り込みを入れたコッペパンに、キャベツの千切りと焼いたソーセージを乗せて、上からケチャップをかける。

 カップに入れた粉末スープをお湯で戻しておく。


 焚き火を消してから幾つかのホットドッグの乗った大皿と、スープの入ったカップ2つを持って亜空間に入る。

 フライパンやスライサーを回収しておき、汚れを亜空間に吸収させ食器棚に収納する。

 10時前にミラが起床したので、2人して遅い朝食を食べる。

 着替え終えたら、本日の仕事の開始だ。

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