第11話 チームの通常の仕事 1日目

「それじゃ、ゼノさん。おやすみなさい」

「おやすみ、ミラ」


 万屋ギルドの裏側で生活魔法の亜空間に入った2人は、各自のベッド脇で着替え挨拶をしてから眠りについた。

 およそ1年振りのベッドに、ゼノは数秒で眠りについた。


「スピー……」


 それを確認したミラも、安心して眠る事にした。

 大丈夫とは思っていても、それでもどこか不安があったのだ、知り合ってまだ3日目の男と同じ部屋で寝るというのは。


(これだけ私を女として意識してないなら、ゼノさんとなら安心してやっていけそうね。それにしても、もうちょっと体をジロジロ、せめてチラッとでも見ないものかしら? これでも体付きには自信があるんだけど……いくら顔が見れないからっていっても、全く欲情されなかったのはちょっと気に入らない)


 絶対の安牌を求めたにも関わらず、全く相手にされないと不満が募る。

 女心は複雑である。



 翌朝2人は日の出前には起床して、身支度を整え終えていた。

 ミラの購入した目覚し時計が、思っていた数倍の破壊力があったのだ。

 反響と増幅の魔法陣が刻まれた目覚し時計のベルは、2度寝を求める睡魔を残らず消し飛ばし、驚いて慌てたミラがベッドから落ちる音まで聞こえてきた。


 きゃっ!という可愛い声に、朝からゼノは若返りった気分になり、懐かしの青春時代を思い出していた。

 そして青春時代に甘酸っぱい事なんて何もなかったと、酷く落ち込んだ。


「どうしよう?」


「アハハ…目覚まし、早くセットし過ぎましたね。喫茶店とかで何か食べてから、そのままゴブリンの残党狩りに行きませんか? 今なら他の万屋も残党狩りをしているでしょうから、狩れる数は少なくなるでしょうけど、その分安全性は増しますから」


「そうだね、そうしようか」



 昼食の事まで考えたのでコンビニで、2人分を2食分購入。

 水は昨日購入したタンクが食器棚の横に置いてあり、中にはミラの魔法で出した聖水が入っている。

 なので味付きの飲み物が欲しく、おにぎり用に緑茶と烏龍茶、サンドイッチ等のパン用に紅茶を購入した。

 朝食のサンドイッチと紅茶のペットボトルだけ残して、他は亜空間に収納した。



「昨日の段階で既に、ゴブリンの死体からは魔石が抜かれて他は焼却されていると思います。なので私達は純粋に、ゴブリンを狩って強くなり、魔石を集めてゼノさんの生活魔法を強化しなければなりません」


「そうだね。昨日も話したけど生活魔法を強化するには、魔物の死体や魔石を亜空間に吸収させる必要があるみたいなんだ。だから今回の安全性の高いゴブリンの残党狩りは、戦闘経験の少ない俺には非常に助かる」


 この世界にゲームの様な明確な数値でのレベルは存在しないが、魔物を倒し続けると肉体と魔力量が強化される。

 中にはこの強化をレベルアップと呼ぶ者も居るが少数派だ。


 戦闘万屋が魔物を狩り続けるのは、得られる金銭だけが目的ではなく。

 自身が強化される事によって、より強力な魔物を狩る力を得るのが目的だったりする。

 また、一日に強くなれる量には上限があるので、戦闘関係者は毎日魔物を狩るのが常識になっている。


 強力な魔物程市場に流れないので、高値で売れる。物によってはオークションが開催され、10年20年は遊んで暮らせる金になる。

 なので彼等はいつか大物を狩るために、日々小物から順に魔物を狩っていく。



 2人がフォーメーションや戦術、合図やはぐれた場合の集合場所等を決め終ると、丁度ゴブリンの出る森の入り口まで到着した。


「さあ、慎重に行こう」


 2人の初めての魔物狩りが始まった。

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