第10話 初めて2人だけの夜
根が貧乏性以下のゼノは、一般人がちょっと高いと思う料理店にて、テーブルについた状態で、かなり挙動不審に陥っていた。
装備は亜空間に置いてきて、服もジャージに着替えている。
ミラも装備を外した動きやすい戦闘用の服で来ている。
仮面だけは相変わらず外していないが。
(まだミラの資金は1束も使ってないから、支払いは問題ないんだけど。食べ終わってから自腹とか割り勘とか言われない?高い料理を食べて、お腹壊さないかな?)
「ゼノさん、安心してください。支払い私が持ちますし、ゼノさんのこれまでの食生活を考えたら、何を食べても腹痛を起こす事はないですから」
「えっ、あっああ、うん。そうだね、ありがとう。落ち着いてみるよ」
スラムから離れ、素の性格や人の良さが出て来て。態度や言葉使いが丸くなった分、生来のヘタレが顔を出し始めている。
(そんなに顔に出てたかな?)
まだまだ猜疑心は失っていないが、ミラはそこそこ信用しているので原因を自分に求めてしまう。
それでなくても表情には出やすいのだが。
料理の味がしなかった。
正確には大変美味しい料理と、ミラとの楽し会話だったのだが。
高い料理店で、安全な料理を、安心して食べられる現実が受け入れきれず。心のどこかで緊張が残っていて、店に入ってから殆どの記憶が残っていない。
「ゼノさん?」
「いやー、美味しいかったなーって、余韻にね? アハハハ……」
「そうですね、とても美味しかったですよね」
店から出ても上の空だったのを見抜かれたのかと思い、咄嗟に誤魔化してみるゼノ。
表通りを2人で横になり歩きながら、目的地を決め忘れているのに2人共気付かない。
「あっ、ゼノさん。ここを曲がりましょう、近道なんですよ」
翌日仕事を探すのにギルドに便利だからと、近い場所で亜空間に入ろうと決まった。
途中ミラが言った近道に入ると、ピンクや紫の灯り看板が乱立している通りに出てしまった。
「あっ、いやその。これはですね!?」
1・2本道を間違え、混乱してしまうミラ。
これではいくら草食系っぽいゼノさんでも、肉食になってしまうんじゃ?私、貞操の危機!?とかミラが考えていると。
ゼノが正面からミラの両肩に手を置いて、少し屈んで目線を合わせて話しかける。
「大丈夫。俺は自分の価値を十分に理解しているから、分不相応に現実の女性は求めないよ。だからミラも、こんな風に自分を出汁にして、俺を試さなくてもいいよ」
と、トンチンカンな事を言っている。
それでも混乱していたミラには効果があったらしく、大笑いしている。
そして一通り笑い終えてから、はいと明るく答えたのだった。
その後は周囲の人達に注目されていた恥ずかしさもあり、急いで元の通りに戻り。
少し遠回りでも、知っている道をゆっくり歩いていった。
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