第9話 買い物3
狭い亜空間。
買ったベッドはミラが右奥の壁際に。
ゼノは右手前の壁際に設置。
いつの間に購入していたのか。ベッドの間の空間には、高く幅広の間仕切りが置かれている。
ベッドと間仕切りの間にはクローゼットが置かれ、衣類や今後増えるであろう装備を収納する場所になる。
入り口から左側はイスが2脚とテーブルが置かれていて。これ等はベッドより先にカトリで購入した物だ。
予定はないが来客用に折り畳みのイスが2脚、壁に立て掛けられている。
左側奥には食器棚が置かれているが、中身はまだない。
「家具の配置も済みましたし、次は食器棚の中身を買いに行きましょうか」
「ああ」
(それにしても、まだ買うのか。必要なのは分かるが、少しくらい休憩を…)
体力のないおっさんの願いも虚しく。年頃の少女の購買意欲は留まる事を知らず、札束を使い切ろうかという勢いで商品を買っている。
共同生活なので割り勘。
大人として全額出したいが手持ちでは足りずに、絞り出した言葉がそれだった。
しかしミラは。
「ゼノさんに対する先行投資です。共同で使用する物については、私が出しますね」
そう言ってダメな大人を立てて、終には資金の尽きたゼノの装備品まで買い与え始めた。
武具屋でゼノが選んだのはまたしても訳あり商品だった。
戦闘経験皆無なので、刃のある武器は満足に扱えないだろう。
なので選んだのは鈍器。
柄の先端に円柱塊。更にその先端に鋭い円錐状の突起がある、一風変わった金属製のメイスだった。
ただこのメイス。全体的に重量バランスが悪く、殴るのにも突くのにも適さない。
先端が重ければ殴るのに便利なはずで、重量バランスが全体的に均一に近いなら突くのにも便利なはず。
そう考えた製作者が自分では、奇跡のバランスで完成した最高の逸品、そう思って売りに出してみたが、結果は散々。
片手で扱える様にしたので鈍器としては軽く、刺突武器としては重く鈍い。
自己復元機能まで持たされた高価な品なのに、何度売れても戻ってくる。
店泣かせの品なのだ。
おかげで値段は格安で説明書きのポップには、如何にこのメイスが不良品であるかが熱く書かれていた。
そんな店泣かせの武器も、ヘタレで軟弱で貧弱で情弱なおっさんには丁度よかった。
全体の重さや柄の長さ、それらが奇跡的にゼノの体格や筋力に噛み合った。
何よりも自己復元機能があって、メンテナンスフリーなのもいい。
メンテナンスする金はないからだ。
左手に括り付ける丸盾や革鎧等も身に着けると、一端の戦闘者になった気がした。
他人からは戦士のコスプレをしたおっさんにしか見えなかった様だが………
ミラも装備を買い替え魔法師風のローブから、戦士然とした動きやすい服と防具を身に着けている。
裏側を握って殴れる丸盾と短剣を買い、接近された時の防衛力を上げた。
元々今は回復魔法しか使えないので、2人チームの状態で回復専門だと戦力を遊ばせておく余裕がないのだ。
食器や調味料、香辛料等の保存性のある物。
数日分の着替えに、個室トイレも揃えた。
あとは実際に試してみなければ、何が不足して不自由するか分からない。
そんな状態にまでなって、ようやくミラの買い物も終了した。
もう疲れ果てて、簡単な物を食べて休みたい。
そう思っていたゼノだったが。
「私達の成功を祈願して、ちょっと美味しい物を食べませんか? 私が出しますよ?」
「ご馳走になります」
見事に掌を返したのだった。
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