第8話 買い物2

 他店より安いが品質は優良と言われている家具屋。

 そこでゼノは、ある重大な見落としがある事に気付いた。


(三十路のお兄さんと二十歳前っぽい少女が。別々とはいえ、一緒に選んでベッドを買うって。傍から見たらアウトじゃない?法律的には15で成人って言ってもさ。外聞的にダメじゃね?再び人生オワタ?)


 ミラが店員と何やら話しをするなか、ゼノは警備員や警察官が姿を表さないか。ずっと戦々恐々としていて、ベッド選びには全く役に立たなかった。



「ゼノさん、値段交渉が終わりました。1人10万イエンです」

「えっ?あっ、ああ。はい」


 ゼノがあるかも知れない恐怖にビビっている間に、ミラが何を買うか決め値段交渉まで済ませていた。

 亜空間から自分の金とミラから預かっている金。それぞれから10万ずつ抜き取って、ミラに渡す。


「はい、確かに。私はお会計してくるので、ゼノさんはあのベッドを収納しておいてください。あそこで手を振ってる店員さんが案内してくれます」

「わかった」


「お客様。こちらのベッドが、ご購入された商品になります」

「って、なんじゃこりゃー!」


 おばちゃん店員に案内された先でゼノが見た物は。

 キングサイズのベッドだった。


「いやー、これ間違えて発注しちゃった品でしてね。もうずっと売れ残りして、不良在庫になってたのよ。それを奥さんが買ってくれたのよ。まあ原価で買われたから、利益なんてないんだけどね。それでも売り場が占領されなくなるから。それにマットレスとかの寝具もまとめて買ってくれたか」


 うんたらかんたら。


 余程邪魔なベッドが売れて嬉しかったのか。接客態度が崩れ、おしゃべりなおばちゃん全開で話しを続けていく女性店員。

 土石流か鉄砲水の様に押し寄せる言葉の奔流に、どうにか理解出来たのはベッドが原価で安く買えただけだった。

 ゼノが考えていたのは人生終了の危機についてだけだった。


(俺が惚れられる要素は皆無だから、残りの可能性は1つ。このベッドは自分1人で使って、俺は床で眠れと。そういう可能性だ! 頼む、そうであってくれ! 同意の元でも、成人してても何もなくても。二十歳前の少女と同衾したとか知られたら、俺は社会的に死ぬ!)


「って、あらすいません。お客さん相手に話し込んだりして。お客さん、収納持ちなんだって? 今ベッドを分解するから、片方ずつ収納してって」


「へっ……分解?」

「そうだよ。このベッドはね、真ん中から左右に分かれて。セミダブル2つになるヘンテコなベッドなのよ。だから売れなかったのさ」


 すっかり接客態度が近所の知り合い相手と同じにまでなった、おばちゃん店員に知らされる驚愕の真実。


(よーし、よしよしよしよし。よーし! 俺の運はまだ終わってなかった。まだ社会的死は回避された!!)


 そもそも1人で勝手にから回っているだけなのだが。約1年のスラム生活で常識や価値観が歪んだゼノには、それがわかっていない。

 かつての記憶と知識からアウト判定になりそうな事を、勝手に想像しているだけに過ぎない。


 何より。ヘタレで自分が非モテだと自覚しているのに。年若い少女が近くにいるのでワンチャンあるかも?とか、うっすら思っているので。不要な心配を作り出している。


 女っ気のない人生だったのに、少女と暮らす事になり。人間らしい生活にも戻れた。

 劇的な環境の変化がゼノから冷静な判断力を奪っている。


 安心を取り戻したら早速ベッドの分解方法を教わり、亜空間に収納した。

 シュンと飲み込む様に収納出来る能力ではないので。店の床が傷付かない様に、店員も含めて何人かで待ち上げて運び込んだのだが。


 商人なら何トンも収納出来る能力の方が求められるらしく。勧誘される事すらなかったが。


(勧誘されても断るしかないっていうのに。なんだか寂しい)


 マットレス等を購入し終えたミラに促され商品を収納すると。

 2人はカトリを後にした。

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