第2話 新人万屋チーム687
新人万屋チーム待機所と案内板のある場所で、電光掲示板から687番を探す。
探すと言っても1チームしか残っていなかったので、電光掲示板の番号だけ確認する。
既に番号の下には3人の男性と、1人の少女が長椅子に座って待っていた。
万屋ギルドでは戦闘万屋の初仕事のみ、登録した順で4〜5人のチームを組み、防壁の外に狩りをしに行く、戦闘万屋の生存確率を上げる方策が取られている。
それでも待機時間が1時間を超えると、人数に関わらず仕事を開始出来る。
人数が揃うまで残るかどうかの判断は自由だ。
万屋には防壁内部で、日雇いや派遣社員の様に働く、一般的な万屋と。
防壁の外へ出て魔物を狩り、薬草等を採取する戦闘万屋の2つに分けられる。
あの受付は余程、ゼノに対応させられたのが気に食わなかったのだろう。
強制的に戦闘万屋にして、外で死んでこいという事らしい。
「1時間ギリギリ待ってみれば、やって来たのは汚えおっさんかよ」
ゼノが到着するなり、1番大柄なヒトの少年が吐き捨てる様に呟く。
猫系獣人の少年は、これみよがしに鼻を抓み。
エルフの少年に見える年齢不詳の男は、一瞥すらしない。
唯一の少女は頭をフルフェイスの仮面で覆い隠し、視線も表情も判断がつかない。
「まあ、いい。俺が来てから1時間経った。新人が受けられる中で、1番金になるゴブリン討伐に行くぞ」
ゼノが到着する以前に決めてあったのだろう。
大柄な少年の言葉に誰も反対せず、斥候らしきエルフについて歩いていく。
ゼノに否やはなく、反対しても無駄なので無言で着いていく。
歩きながら1度きりのチームメイトを観察していく。
ヒトの少年は服の上から古びた革の胸当てを着け、腰には長剣を装備している。
エルフも革の胸当てのみで、武器は弓矢。
獣人はズボンのみで、上半身裸で靴すらない。
少女は白かクリーム色のローブに先の巻いた木の杖。
ゼノより布面積の少ない獣人でさえ、ズボンは清潔に洗われている様だ。
「おっさんには何も期待してねーから、これ持って死んだゴブリンの右耳を切り取れ」
ヒトの少年からナイフと麻袋を渡され、無言で受け取って頷く。
防壁を潜る際に自動でタグが検知され、外出記録がつけられる。
防壁から外に出ると安全の保証のない、魔物の跋扈する危険な世界になる。
万屋になるような金なし達が、馬や車などの乗り物を持つわけもなく、ゴブリンの出る近場の森まで3時間歩いた。
その間、誰も一言も喋らなかった。
ゼノは万屋の冊子を読み終わり、自分のタグにある情報を読んでいた。
ゼノ
F
生活魔法
タグには名前と現在の等級、それに所持能力のみ見られる。
これはステータス診断が有料なので、タグ生成時のみ、無料でステータス診断をしてタグに表示させている。
まあそれは建前で、ギルドの登録料にステータス診断の代金も含まれている。
(生活魔法って、アレだろ? ライター程度の火を出したり、少し水を出すだけの、ちょっとだけあると便利な、安い金で代替可能なケチ魔法の事だろ? そのケチる金すらない俺には有り難い魔法なんだがな……さっきから試してはいるが、一向に使えるような感触がしない)
ゼノは火、種火、着火、ファイヤー等と念じているが、指先から火が出る気配はないまま、目的の森まで辿り着いた。
「ここからは僕達2人で先導する。枝葉に触れたり踏んだりして、大きな音を出さない様に」
エルフが獣人を見て頷きあい、少年少女とゼノに注意する。
こうして新人万屋チーム687の初仕事が始まった。
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