023 魂と理と
「確認したいのだけど、絡まった魂はメフィストの力で解すというか、2つに分ける事は出来ないのだろうか?」
少し前にも考えたが、もしもの場合は紅葉だけでも自由にしてあげたいと思っての事だ。
綺麗に分かれれば、紅葉も新しい人生をやり直せるかも知れない。それに、絡まったままでは『交換条件』が意味を成さないからだ。
「絡まり過ぎてしまいましたので、残念ながら2つに分かつ事は出来ませんわ。もしも、どうしてもとおっしゃるならば、申し訳ありませんが、雫程に細分するしか方法は御座いません」
「おい、雫に分解とか、おかしいだろう?輪廻転生って言うじゃ無いか。それでは生まれ変われないではないか。それに魂を分解とか変じゃないか?魂っていったい何だよ!」
メフィストは考え込んでしまった。なんだろう、凄く困った表情だった。
「竜登様。魂はね、わたくしを含・・・・・・・
:
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・・・・・・という事なのよ」
「今、なんて言った?何も聞こえなかったぞ。まさか口パクしてからかってんじゃないよな」
「竜登様。魂はね、わたくしを含・・・・・・・
:
:
・・・・・・という事なのよ」
メフィストは棒読みで同じ台詞繰り返したらしい。しかし何も聞こえなかった。
聞こえない・・・というより、全ての音が消えた感じだ。まるで編集ミスの動画を見た様な、放送のNGコードが有った時のピー音の代わりみたいだった。
「おい、からかうのは、いい加減にしてくれよ」
「からかってはおりませんわ。やはり、理(ことわり)に触れる事柄でしたわね」
「理(ことわり)?回数制限に引っかかったというのか」
「そうなりますわ」
「理(ことわり)の制限に引っかかると音が消えるだけだったのか?もっと罰則があると思ったけど、以外と軽いんだな」
「そんな事は御座いませんわ。もっと重要な案件でしたら、重病や最悪の場合は『死』でしょうね」
「まるで口封じするみたいじゃないか。物騒だな」
「そうね、口封じそのものかしら」
「・・・それじゃ、しょうがないか・・・・と諦めると思うなよ。それなら理(ことわり)に掛からない程度で説明してくれないか」
新たな世界に転生とか、雫へ分解とか、矛盾してる気がしてならないのだ。
「例えなら・・・魂とは核となる魂の欠片に雫が集まって顕現されるの。雪の結晶みたいなものかしら」
「それだと、輪廻は無いと受け取れるが?」
「輪廻なんて有る訳ないじゃない。もしあったら原始の男女の2人しか存在しない事になるわよ」
2つの魂しか無い事になる。というのは妙に納得してしまう。
「そうね、自称魔道士な竜登様なら前世占い~とか受けたと思うけど、鑑定はみんなバラバラだったはずよ。それもそうでしょう。だって沢山の雫が集まっているのですから。鑑定者の波長にあった魂が『視えた』のだと思うわよ」
突然、霊感だかスピリチュアルな話しを振られて困惑したが、『そういうイメージ』だと考えれば腑に落ちる所がある。
とは云っても、全然判らない。
誰がだったかな、「自分を考える自分がいる事は嘘では無い」と唱えた人が居た気がする。引用するなら。『自分という魂がある』でいいや。これ以上は無理だな。
「とりあえずは、ありがとう。少し紅葉と話す時間をくれないか」
「ええ、どうぞごゆっくり相談して下さいな」
少し整理をしよう。
問題は無いと言ってくれるが、紅葉の人生を奪ってしまったという可能性が残っている以上、気になってしょうがない。そう、自責の念に駆られているのだろう。
『交換条件』で紅葉に新しい人生をと希望しても、魂が離れない以上、私が契約のもとで異世界に行ったら、紅葉も漏れなく付いてくるって事だ。
悪魔の使いに成り下がった罰を、紅葉にも背負わせてしまう。メフィストが求めているのは私の能力、魂を喰らう・・・もとい、取り込む能力だ。紅葉には関係が無い。
「りと、はなし、て、なに?」
結構考え込んでいたらしい。しびれをきらしたのか、紅葉から声をかけられた。
「え、あ、」
「ど、したの」
「あ、え、えと・・・」
なさけなくも変な声を上げてしまった。
「紅葉様。お体は如何でしょう。お障りは御座いませんか」
「い~、だ」
紅葉のメフィスト嫌いは相変わらずだが、メフィストが助け船を出してくれて助かった。
そうだ、体に不都合は無いだろうか。舌もつれた感じも抜けてきて聞き取りやすくなった。
「そ、そうだ、くれは。初めて体を持つてどんな感じだろう?」
「わたし? うれし、い。たのし、い。すてき。とても、すてき」
見た目の年齢相応に跳ねてはしゃぐ感じがとても可愛いかった。
「はだを、すりぬける、かぜ、きもち、いい。ふく、こすれて、くすぐ、たい。ゆれる、かみ、おもしろい。みんあ、すごく、しんせん。すごく、たのし、い」
紅葉は目を輝かせて、体全体で想いを、気持ちを伝えている。
肌をすり抜ける風が、肌を擦る服が、頬を叩く髪がとても新鮮だと、力の限り愉しんでいる。
私には極当たり前の事なのに、紅葉には事新しく感じるのだろう。と考えている時に深く抱きついてきた。鼻息が耳を擦りくすぐったい。
「えへへ~、りとの、におい。ちょと、へんだけど、これが、りと、なんだ~」
表情が緩んでいるのが解る程に声のトーンも緩んでいた。
なんというか、匂いを嗅がれるのは恥ずかしくもあり、こそばゆい。
それと同時に私も紅葉の芳香に心惹かれた。いや、違う。違うから。と心の中で訴えた。誰に?何を?
「紅葉様は、竜登様の中はどんな感じたったのかしら?どういう風に過ごされたのかしら?」
心安らぐままにしていた所で、メフィストが問い掛けた。
「じゃま、しない、で」
邪魔をされた苛立ちに任せて言い放った。
邪魔された感じは私も同じだった。しかし、メフィストの問い掛けも気になった。魂の中ってどんな世界なのだろう、かと。
「くれはは、今までどんな感じで暮らしていたの?」
「あ、あのね、えとね、えいがかん。・・・ちがうわ。おへやで、おおきな、てれび、みてる、かんじ?」
子供が部屋に閉じ込められて、娯楽代わりに映画を見せている、そんなイメージが浮かび上がってきた。切なさと寂しさが、より一層に罪悪感を降り積もらせる。
ふと、思いついた事がある。
いやいや、どうだろうか?尋ねてよいのだろうか。
「ど、したの。あ、だいじょぶ、だよ。さびしく、なか、たよ。ずと、りとと、いっしょ、だった、から」
私の思案に気付いて慰めたのかもしれないが、これで決心がついた。
「くれは、もしも、もしもだよ・・・・」
この時、一瞬でもメフィストの表情を見るべきだったのかもしれない・・・
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