021 メフィストの目的
考えている事がある。紅葉の事だ。
この幼女、いや中身は私と同じ年齢だから中年女史だろうが、見てくれと比較するとかなりギャップがある
「りと、なに、かん、げ、てる、の」
左腕を引っ張られながら言われた。
「わたし・こと、きに、なた?」
ちょうど紅葉の事を考え始めた所だった。タイミングが良いのか悪いのか?
「くれは、なんでもないよ。なんでもないから」
それとも勘が良いのだろうか。どちらにしても変な事は考えない様にしないと。
メフィスト、いや道化者の方から『喰らった』と言われた時から気になっていた。
もしかしたら、私は関係の無い紅葉を悪魔契約に巻き込んでしまったのでは無いのだろうか。関係ない人(の魂)に迷惑を掛けてしまっていると思うと、とても不安になる。
紅葉だけでもここから解放される策はないものだろうか。
もちろん、私と紅葉共に解放されるのが良いのだが、最悪でも紅葉は自由にしてあげたい。その糸口を探す為にも、メフィストから謝罪という情報を集めなければならないと考えている。
契約を条件に紅葉の解放を求めるのもあるだろうが、これは最終手段であり、今は悟られてはいけない。悟られれば交換条件へと誘導されかねないからだ。
さて、話しの主導権はどうしようか。メフィストのお任せで聞くのもあるが、都合の良い所だけセレクトされる不安がある。私から問い掛ける方が良いのだろうか?
「質問があるけど、いいかな」
「ええ、どうぞ」
とりあえず質問するのは問題はなさそうだ。
「私をどうやって見つけたんだい?地球の人口が約70億と聞いた事がある。過去から未来も含めれば天文学的数字だ。その中でどうやって見つけられたのか、その方法を聞いて良いかな」
ちょと前に人の世界を『蟻の巣』と例えた事があった。この例えを引用するならば、もし蟻の中から特定の個体を見つけろと言われたら絶対に無理だろう。メフィストは何と答えるだろうか。悪魔の力とかいい加減な事を言うものならば嘲笑してやろう。
「・・・方法と申されましても、本当に偶然なのよ」
『わたくしの能力ですわ』と言われる以上にいい加減な答えが返ってきた。嘲笑する以前に呆れてしょうがない。
「ほう、メフィストは偶然のすれ違いでストーカーをする程に暇なのか」
「あら?どうしてイライラされてるのか皆目つきませんわ。本当に偶然だったのよ。だって、竜登様の魂はとても奇異な光を発しておりましたもの。興味を抱いて覗いてみたら竜登様だっただけの事なのよ」
「光?光とはオーラとか、そういう類いの事か?」
「竜登様には『オーラ』と言った方が分かり易いのですね。ええオーラの事よ」
「それで、奇異とはなんだよ。あまり良い響きを感じなくて嫌なんだけどな」
「奇異は奇異よ。本来なら有り得ない色が2つの輝きがあったの。そうね、水と油みたいに相反する色の魂が混在してるのよ。ちょっと不思議だったわね」
「水と油の魂が混在と言われてもさっぱりだ。もっと分かり易い例えは無いのかよ」
「例えねぇ・・・・。鶏の、卵黄が2つある卵、と言えば良いかしら」
「卵黄が2つある卵?・・・別に珍しくも無いだろう。それを奇異と言われても実感できんのだけど」
卵黄が2つある卵という商品があった気がした。光で透かせば選り分ける事は容易なはずだ。これを珍しいと言われてもまったくだ。
「困ったわねぇ。それでは、その卵黄が色の違っていた。というのはどうかしら?1つは赤、1つは白ね」
卵黄が黄色い理由、それは飼料、主にトウモロコシらしいが、黄色い色素が含まれてるからと教わった事がある。野菜がそうだ。だから緑『黄』色と呼ばれる所以だ。
トマトやニンジン、パプリカ等の赤い野菜が多ければ赤くなるし、米が多いと白くなるらしい。
別々ならば飼料の差で済むが、1つの卵に2色異なっていれば確かに奇妙だ。
「それでね、その魂を観察して思ったのよ。もしかしたら『取り込んだ』のかも知れないってね。者は試しに1度はと思ってお声をおかけした次第ですのよ。この様な魂はそうそう見かけ無いからね」
「だったら、回りくどい事をしなくても、正直に伝えば良かったじゃないか。それとも理(ことわり)とやらの制限でもあったのかよ」
「竜登様はわたくしを『悪魔』と認識した時点で、一切聞き入れくれませんでした。何を今更おっしゃるのでしょう」
う・・・、確かにその通りだった。
「だったらいっそうの事、転移でもなんでも勝手にしてしまえば良かったんじゃ無いのか。者は試しなんだろう」
「そういう方法もありましたわね。使い捨て、という強制手段がありましたわ」
「ちょっと待った!『喚んだ人を使い捨て』ってそんなのありえるのか?!」
「そんなに驚く事でしょうか?人間だって似た様な者でしょう。例えば「捨子猫可哀想、大事に育てる、と思ったけど・・・」というの、聞き覚え有りませんか?」
それは倫理観の問題で・・・といっても、色々と、そう色々と難しいのだろうなぁ。
「では、改めて教えてくれ。何故、手間の掛かる面談という方法で私を誘うのだろうか?転移させる事は考えなかったのかい」
「この話し合いは、わたくしの『誠意』で御座います。これからお役に立って頂ける為の心からの願いで御座います。だってそうじゃないですか。勝手に転移いておいて、『貴様なかなかやるな。どうだ俺の部下に成れ』と誘われても疑うでしょう」
確かにコレは非道すぎる。
「わたくしはね、竜登様が活躍されるのでしたら、わたくしに協力をお願いしたいので御座います」
「協力?だと。使役する、の間違いじゃ無いのか」
「協力者に成って頂きたいのです。できるだけ対等な協力者としてわたくしの事を手伝って頂きたいのですわ。その為に、できる限りお話しをして、理解を得られましょうに努めてまいりました」
「ふーん。甘言や誘惑を駆使しておいて、理解しろとは、ずいぶんたいそうな事を言うもんだ」
言っている事と行動に協調性が無いと、鼻で笑って言い返した。ちなみに道化者の姿ではないので嫌がらせを表現する言葉はあえて控えた。少なくともメフィストの姿ではからかいはするが、難癖は付けられていないと思ったからだ。
「そうですわね。その様な印象を抱かれたでしたら、致し方御座いませんわ」
「やけに素直に認めるじゃないか?もっと否定すると思っんだけどな」
「その通りですわ。今はわたくしの心象について論議するの刻ではありませんもの」
この後メフィストの表情は僅かだが険しくなった。今までの温和(やさ)しさとのギャップで背筋が凍る思いだ。
「そ・れ・に、竜登様!会話の連続性って御存知ですか?!関連性の喪失って知ってます?!話しの趣旨とは全く違う方向へ話しを反らしているのは竜登様なのよ。思いつくままに話すのは遠慮して下さいませ。これだからコミュ障なのよ!」
人差し指を立てた姿は可愛くも思ったが、トーンの低い言い方をより強調している風になっていた。そして最後の一言がグサリと胸に刺さる。
「・・・ごめん、なさい・・・」
あまりの迫力に子供っぽく謝ってしまった。もっとも子供の姿だからこそ素直に謝れたのだと思う。大人の姿だったら、無駄なプライドが邪魔をして逆ギレをしたかもしれない。改めるとなんと小さい性根だろうか・・・。
「そういう素直な竜登様は、わたくし好きだわ」
先程の剣幕とは打って変わって、とても可愛らしく、立てた人差し指で軽く私の額を突っついた。不意打ちに近い仕草に、不覚にもちょっと嬉しくて赤面しなから呆然としてしまった。
こういう手練手管をするから誘惑だと言っている。と言いたいが、話しがこじれるので、心の中で訴えた。「りと!」
紅葉に左腕を力一杯に引っ張られてしまった。
「りと!なに、いろかに、まどう、のよ、ばかっ!!」
「ご、ごめん。ごめんよ」
謝る事しか出来ない自分が情けなく感じる。
「あらまぁ、紅葉様ったら愉しそうね。そうそう、その新しい体は如何かしら。気に入って頂けたら嬉しいわ」
メフィストが軽く笑いながら横槍っぽく割り込んだ。
「べ~っだ」
紅葉は、私の左腕を更に強く引っ張りながら応えた。
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